2024年11月24日(日)

WORLD CURRENT

2010年4月26日

 中国が出口政策に半身の構えなのは、成長の鈍化が失業の増加を招き、社会不安を引き起こすと心配しているからだ。成長を至上命令としている中国の全人代は、10年の政策運営についても「積極的な財政政策」と「適度に緩和された金融政策」を打ち出した。これではバブルの勢いは収まらない。

 もうひとつ、中国が気をもんでいるのは、人民元切り上げ問題だ。小幅切り上げでお茶を濁そうにも、米議会を中心に大幅切り上げの強硬論が台頭している。これでは面子もあり、早期の切り上げに動けない。米中は典型的な手詰まりに陥っている。

 外為市場では人民元の切り上げは避けられないと読み、中国に向かって短期資金が流れ込んでいる。日米欧など先進国は景気回復の足取りが重く、金融緩和が続いているが、自国内にはこれといった投資対象がない。円ばかりでなくドルを元手にした対外投資が膨らんでおり、その標的が中国の人民元なのだ。

 こうした人民元買いの奔流に歯止めをかけるために、中央銀行としては人民元売り・ドル買いの介入を続け外貨準備を膨らますほかない。介入に伴って人民元がマーケットにばら撒かれる結果、過剰流動性が膨らんでいく。通貨供給量の急増はその産物でもある。

アジア依存の日本が直面する新興国リスク

 過剰流動性に輪をかけてバブルを煽っているのは、実質金利がマイナスになっていることだ。一年物の預金基準金利が2.25%なのに対し、2月の消費者物価上昇率は春節の影響もあり2.7%。物価上昇率を差し引いた実質金利では、中国はいまやマイナスなのである。預金に置いていたのでは妙味がないとみた資金は、株式や不動産に流れ込む。

 失業を防ぐための景気対策が大切とはいえ、中国の当局がバブルの成り行きに気をもんでいるのは間違いない。中央銀行による小幅な利上げは、早晩実施されるだろう。こうして見ると、資源輸出に頼り過ぎ経済改革に失敗したロシアを除き、BRICsがそろって利上げに動きつつあるのである。

 翻って4月から新年度入りした日本。4月1日に日銀が発表した企業短期経済観測調査(短観)などを見ても、企業の業況判断が着実に回復してきている。その原動力は中国などアジア向けの輸出である。地域別の輸出数量指数をみても、米欧向けは08年のリーマン.ショック前の水準を大幅に下回っているのに対し、アジア向けは過去最高水準となっている。アジア向け輸出が起点となって、企業の生産が持ち直し、収益も好転している。

 もちろん、アジア向けの輸出は単価が低く、米国向けのようには儲からない。韓国メーカーなどとの値段の叩き合いも、状況を一段と厳しくしている。ただ、それでも工場の設備を遊ばせたままにしておくよりは良いというのが、経営者の本音だろう。

 問題は新興国の景気がうまく拡大し続けるかどうか。インフレやバブルの影響で新興国の景気が失速してしまうようだと、日本の回復シナリオも腰折れしかねない。新興国、とりわけ中国などアジア諸国が、非常時対応の経済政策からうまく出口を潜り抜け、経済を安定軌道に乗せられるか。10年の日本は米景気もさることながら、新興国の経済に振り回されることになりそうだ。

◆ 「WEDGE」2010年5月号

 

 


 

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