2024年7月25日(木)

個人美術館ものがたり

2010年5月18日

 日本館に並ぶのもまずは小品で、高橋由一の鯛の絵にはじまり、藤島武二、岸田劉生、安井曾太郎、梅原龍三郎、熊谷守一もあった。コンテ一色の小さい風景デッサンは、一目見て村山槐多〔かいた〕とわかるのが不思議だった。

 それとここの特色に、画家たちがじっさいに使っていたパレットの展示がある。寄贈されたものだそうだが、長年の絵具が周囲に土手のように盛り上がり、中央の平らな部分にその作家ならではの小景が軽く描かれている。これはこの画商ならではのコレクションで、それぞれの画家作品の科学鑑定のときにも役立つそうだ。

 というところで、この美術館の概要は、終りではない。この場所から3キロほど離れた笠間駅の反対側に、分館の「春風萬里荘」がある。立派な門構えに広い庭の広がる茅葺きの日本家屋で、これは30年間北大路魯山人の自邸だったものだ。それをもとあった北鎌倉から移築している。長谷川にはもともと笠間に芸術村を、という構想があり、美術館自体もむしろその要素の一つとして始っている。

 魯山人とはまったく面識はなかったが、没後放置されたまま荒れていたので、これも引き取って要素の一つに加えたものだ。玄関を入ると、まずは様々な形の木レンガを敷き詰めた床が目を引く。見るからに手造りの据付けベンチもあって、名建築というニュアンスよりは、魯山人らしい好みを各所に施した趣味の館という感じだ。もとは厚木市近郊にあった江戸時代からの大庄屋の家だそうだ。この建物も厚木、北鎌倉、笠間と遍歴を重ねて、この芸術保護区が、安住の地となったわけである。

(写真:川上尚見)

【笠間日動美術館】
〈住〉 茨城県笠間市笠間978-4  〈電〉0296(72)2160
http://www.nichido-garo.co.jp/museum/

日動画廊創業45周年と長谷川仁・林子夫妻の金婚式を記念し、分館・春風萬里荘とともに1972年に開館。長谷川仁氏は昭和初期から画廊経営者として活躍、藤田嗣治や藤島武二をはじめ多くの画家たちの信頼をかちえ、日本洋画壇の発展につくした。画商として訪問販売を始めた当初は「油なら間に合っている」といわれたこともあったという。フランス館の1階には夫妻の記念室があり、日本館のパレットコレクションは常時約200点を展示している。

〈開〉 9時30分~17時 *入館は16時30分まで
〈休〉 月曜(祝日の場合は翌日)、展示替え期間、年末年始
〈料〉
 一般1,000〔1,400〕円 65歳以上800〔1,100〕円  
*〔  〕内は春風萬里荘との共通券
※分館・春風萬里荘 〈住〉笠間市下市毛 芸術の村 〈電〉0296(72)0958

◆ 「ひととき」2010年5月号より

 


 

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