ジレンマと究極的選択
今回の施政演説ではトランプ大統領は、声のトーンを柔らかくして米議会に対して敵意のある態度をとりませんでした。当日放送された「フォックス・アンド・フレンズ」という番組の中で、同大統領は就任から40日間を自己採点し「達成はA。メッセージはCかCプラス」と答えています。声のトーンといった非言語コミュニケーションと態度を修正してメッセージの発信の仕方に変化をつけたのです。それが的中しました。
さらに、「慣例」となっている「偽ニュース」を用いたメディア攻撃も一切ありませんでした。難病を克服した大学生、戦死した米海軍特殊部隊の妻及び不法移民に息子を殺害された父親をゲストに招き、人間愛に溢れた大統領を演出したのです。
ただ議会との融和を求めるトランプ大統領の態度が、いつまで続くのかは不透明です。共和党主流派を嫌うスティーブン・バノン大統領首席戦略官、戦略的イニシアティブ・グループ(SIG)のセバスチャン・ゴーカ大統領補佐官及び政策担当のスティーブン・ミラー大統領補佐官といった所謂極右ラインの発言がさらに増せば、米議会与党共和党主流派との対決姿勢が再び鮮明になってきます(図表2)。
それに加えて、将来、同大統領は自身が掲げた政策実現のために極右ラインとマイク・ペンス副大統領、ラインス・プリーバス大統領首席補佐官、ショーン・スパイサー報道官といったホワイトハウスにおける共和党主流派の間でジレンマに陥る可能性があります。その時、究極的選択を迫られる可能性は否定できません。
公約を果たすリーダー像
施政演説でトランプ大統領はメキシコとの国境の壁建設、法人税引き下げ及び中間層に対する減税並びに石油パイプラインの建設などについて力説し、米国民のために公約を果たす決意を示しました。実績の一つとして、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱を挙げたのです。
米ギャラップ社の世論調査(2017年2月1-5日実施)によりますと、全体の62%がトランプ大統領は公約を果たすと回答しています。共和党支持者及び同党に傾いている支持者に至っては、91%が公約を果たすと答えているのです。これは同大統領の強さの一つです。初めての議会演説を、公約を守るリーダー像の維持を図る目的としても利用していました。