ナンバー2のビンラディンの息子も殺害
トランプ政権のアルカイダに対する攻撃が激化しているのはイエメンだけではない。シリアでも空爆を強めている。シリアでは昨年、内戦の激戦地、北部のアレッポから反体制派が退去した際、アルカイダ系の「シリア征服戦線」(旧ヌスラ戦線)も北西部のイドリブ県に移った。
ところが「シリア征服戦線」はかつて共存していた反体制派への攻撃に転換、イドリブ県のほとんどを掌握。他の過激派を取り込んで「ハヤト・タフリル・シャム」という過激派連合を作り上げた。
反体制派は非アルカイダ系の「アハラム・シャム」と合流するなど生き残りを図っているが、アサド政府軍に追い詰められている上、アルカイダ一派にも狙われるというピンチに立たされた格好だ。
米国はアルカイダの勢力拡大を深刻に受け止め、アルカイダへの攻撃を激化させ、2月末には無人機による空爆で、アルカイダ本家の指導者アイマン・ザワヒリに次ぐナンバー2のアブ・カイル・マスリを殺害した。マスリはアルカイダの創設者で、9・11の首謀者ビンラディンの義理の息子だ。
マスリは米国によるアフガニスタン戦争で、アフガンから脱出し、イランにかくまわれていたが、2015年にシリアに潜入。「シリア征服戦線」の指導者モハメド・ジョラニに次ぐ副指導者として活動していた。
生き残りを優先
米国は現在、シリアとイラクではISに対する壊滅作戦も推進、ISの幹部が彼らの首都であるシリア・ラッカから逃げ出していると伝えられている。しかし最高指導者バグダディの消息はようとして分かっていない。
ベイルートの過激派ウオッチャーは「今後ISがさらに追い詰められた時、悪夢のシナリオが現実味を帯びてくる。それはISが米国に対抗するためアルカイダと合体することだ」と指摘する。ISの組織が瓦解する中、路線の違いを棚上げにして生き残りを優先するという選択肢は十分あり得るものだろう。
とりわけ、イエメンのAQAPの幹部らにはISとの合体論者も多いといわれている。ISのイラクの拠点モスルやラッカに滅びの足音が迫る中、逃げ出したISの戦闘員がイエメンに流れ込み、AQAPに合流することになれば、世界の最貧国に過激派の一大聖域が生まれることになるだろう。
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