高齢者は犯罪や消費トラブルにも巻き込まれやすい。65歳以上が暮らす2350万世帯の内、単独もしくは夫婦のみ世帯が55%を占める。「高齢社会白書」(16年版)によると、振り込め詐欺被害件数の8割を60歳以上が占め、消費生活センターに寄せられた70歳以上の相談は20万件にものぼる。成年後見制度は、判断能力のレベルに応じて「補助」、「保佐」、「後見」の3類型に分かれるが、日常生活に支障がなくても、判断能力が不十分であれば「補助」の申し立てができる。しかし、制度の利用は進んでいない。
現在は500万人超が認知症とされているが、成年後見制度(3類型の合計)の利用は15年末時点で約19万件に留まっている。「国民に制度を周知できていない」(法務省)ことも大きな理由の一つだが、利用を促進させるためには、「親族だけでなく、専門職、市民後見人、社協など、あらゆる分野で後見の担い手の養成を急がなければならない」(中央大学法学部・新井誠教授)。
成年後見人(保佐人、補助人含む)の担い手はこの10年で様変わりした。04年には親族が8割、弁護士や司法書士などの第三者が2割だったが、15年には親族が3割、第三者が7割へと成年後見の専門職への「外注化」が顕著になっている。15年に全国で後見を開始した約3万5000件の内、4分の1強を占めたのは司法書士。成年後見センター・リーガルサポートの大貫正男相談役は、「1人で40~50件の成年後見を行っている司法書士も出てきており、身上監護に重きを置いた後見ができるかが問われている。執務基準を策定するなどして後見の質を高めていきたい」と課題を口にする。
また、親族でも専門職でもない後見の担い手として期待される市民後見人の養成も徐々に進んでおり、全国で1万人に上るという。東京都江戸川区では講習を終えた67人の内、現在25人が後見人として活動している。その内の一人、皆川栄子さん(67歳)は80代女性の成年後見人を7年以上も務めている。「最初は不安でしたが、世の中に貢献していることを実感するので人生が充実しています」と、女性が入所する特別養護老人ホームに月1回のペースで通う。
しかし、15年に新規で選任された市民後見人は、約200件と総数の1%にも満たない。というのも、市民後見人が選任されるには、「地域のサポートが必要」(最高裁家庭局・石井芳明課長)であるが、どこの地域も財政難で支援体制が弱いため、専門職が選任される傾向にある。