2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年4月5日

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのマーティン・ウルフが、3月1日付同紙のコラムで、インドには世界の経済大国として台頭するチャンスがあるが、それには、克服すべき3つの長期的課題と1つの短期的課題がある、と言っています。要旨、次の通り。

(iStock)

 1947年の独立前夜、ネルー初代インド首相は「運命との約束(tryst with destiny)」と言った。巨大で貧しかったインドは民主主義と発展の道に踏み出し、70年後もそれを維持している。インドは誇りを持ってよい。

 2050年まで一人当たりGDPが、中国が年3%、インドが年4%、米国が年1.5%成長するとすれば、中国の一人当たりGDPは米国の40%、インドのそれは米国の26%になる。中国の経済は購買力平価で世界最大となり、インドは2位、米国は3位となる。インド財務省の経済白書は、同国が社会主義から「開かれた貿易、資本市場への解放、民間部門への依存」に移行してきたことを示している。モディ政権下で、新たな破産法、財サービス税など、改革が続いている。

 しかし、経済白書は、インドと他の市場志向型新興経済との3つの好ましくない相違を認めている。民間の部門取り込みと所有権保護への躊躇、教育や保健部門などにおける国の能力の弱さ、大規模で非効率的な富の再配分である。

 成長するインドの中流階級が、統治の質の改善を強いることが期待される。それには、3つの重要な長期的課題と1つの短期的課題があるように思われる。

 長期的課題の第一は教育である。急成長する経済に必要なスキルを持っていれば、増加する巨大な労働力は、ハンディではなく強みである。教育は国の責任である。しかし、「競争的連邦主義(州同士で競争をする)」は、教育における必要な改善を促進していない。

 第二の長期的課題は環境である。2050年までにインドのGDPは400%成長し得る。都市化も急速に進むだろう。現在インドの人口の3分の1が都市に居住しているが、2050年までにこの比率は倍になり得る。これを上手く管理するには、大量の組織と投資が必要である。しかし、環境問題は国内問題にとどまらない。インドは、大量の化石燃料を使用せずに発展をする必要がある。

 第三の長期的課題は、外的経済環境である。今後10年で、インドの財・サービス輸出の世界GDPに占める割合(現在0.6%、中国は3.3%)は倍増し得る。しかし、高所得国における反グローバリゼーションを考えれば、それは容易なことではないかもしれない。インドは、如何にしてオープンな世界経済を促進していくことができるか、考える必要があろう。

 短期的な大きな課題は、投資の弱さである。「双子のバランスシート問題(負債の多過ぎる企業、債務の多過ぎる銀行)」が投資と成長を阻害する要因の一つとなっている。とるべき対策は、損失の承認、負債の再編、急進的な銀行改革の組み合わせである。これは、困難だが重要である。

 インドには、世界で最も成長の速い経済大国であり続け、今世紀半ばには、もう一つの民主主義の超大国となるチャンスがある。しかし直面する課題は大きい。過去の成功は、これらを克服できることを示唆するが、多くの変化が必要であり、変化は自動的には訪れない。再び、インドには「運命との約束」がある。

出典:Martin Wolf,‘India faces another tryst with destiny’(Financial Times, March 1, 2017)
https://www.ft.com/content/b351b50a-fcec-11e6-8d8e-a5e3738f9ae4


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