バイデン副大統領の下で東アジア、南アジア及び太平洋地域についての上級顧問を務めたJacob Stokesが、Foreign Affairs誌ウェブサイトに2月22日付で掲載された論説において、トランプ周辺に見られる「中国とのバランスを取るためにロシアと手を結ぶ」との発想は浅はかだ、と批判しています。要旨次の通り。
米国はロシアとの関係を増進することで、台頭する中国とのバランスを取れ、との論調がある。しかし、中ロ関係は冷戦後多かれ少なかれ一貫して良くなっている。両国は、同盟関係は結んでいないものの、2001年には善隣友好協力条約を結び、習近平はプーチンと温かい関係を持っている。そして両国はエネルギー供給、地中海・南シナ海等での共同軍事演習、兵器の供給、サイバー空間管理能力強化等、多方面での協力を進めている。
中ロ両国の対米関係はこれまでになく悪く、両国は米国優位の時代に終止符を打ちたいとの欲求で結びついている。最近の人民日報は、「中ロ関係は世界の平和と安定にとっての重石」であると書いた。ロシアは、中国と対抗するために米国と組む必要性を感じていない。
米国が敢えてロシアの協力を求めようとすれば、ロシアはその代償にクリミア併合に対する制裁の解除、ウクライナへの支援の停止、シリアのアサド政権容認等を求めてくるかもしれない。ロシアがさらに欧州のMD撤去、NATO拡張の停止、あるいはNATOの廃止すら求めてくるようなことがあれば、米国が戦後70年にわたって築いた欧州での地位は失われてしまうだろう。そして、ロシアが力でクリミアを併合したことを認めるようなことをすれば、東シナ海、南シナ海で中国が同様の行動に出るのを止めるのは難しくなる。
仮にプーチンを説得して中国との協力を止めさせるのに成功したとしても、ロシアの太平洋艦隊の実力等では、中国の悪い行動を抑える力にならない。そしてロシアは中国と本気で対抗しようと思えば、他のアジア諸国との友好関係を必要とし、日本に対してもっと譲歩せざるを得ず、韓国に対してもTHAAD配備容認、北朝鮮支持の抑制等の譲歩をせざるを得なくなるだろう。
大国間のパワー・ポリティクスが激化している現在、米国は二つの方向を採用するべきだろう。一つは、ロシア及び中国と可能な分野(気候、エネルギー、テロ防止、核不拡散等)では協力することで信頼関係を築き、それによって核兵器、MD、現代の主権概念、武力介入のルール等戦略的な安定に関わる問題について三国間での了解を作り上げることである。
もう一つは、米国が欧州・アジアの同盟国及びパートナー諸国、及び次第に強力になってきた中位国家ブラジル、インド、ベトナム等との協力関係を維持・構築していくことである。ロシア、中国のいずれも、世界に友好国のネットワークを持っていない。世界で影響力争いをするのであれば、同盟国とパートナー諸国の広汎なネットワークを持っていることは負担と言うより資産である。
中国とのバランスを築くためにロシアの助力を得るというやり方は、うまいやり方とは言えない。
出典:Jacob Stokes,‘Russia and China’s Enduring Alliance’(Foreign Affairs, February 22, 2017)
https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2017-02-22/russia-and-china-s-enduring-alliance