この論説は、①中ロとは濃淡をつけることなく可能な分野で協力して三者間の信頼感を醸成、それによって核戦力等世界の安定に関わることについての合意を追求すること、②世界における米国の影響力を維持・強化していく上で同盟国・友好国との関係は負担というより資産であることを肝に銘じて、これら諸国との協力関係を強化していくこと、を米国の基本的戦略として提唱しています。現実的な見解だと思います。
「ロシアには、中国に対するカウンター・バランスとなる意志がないだけでなく、その力もない」という認識は、全くその通りでしょう。筆者が言う通り、ロシアの太平洋艦隊は老朽化し、補充の遅れ等も生じています。日本の場合も、ロシアに対中抑止効果を期待するのは非現実的で、それよりも「中国とロシアを同時に敵に回すことは避ける」程度の認識で臨むべきなのでしょう。
米中露関係の先行きについては、次の点でオバマ時代とは様変わりになる可能性があります。まず、トランプ政権は国防費の10%増額、及び核装備の近代化を予定する等、中ロとの軍事力格差を再び決定的なものとし、それによって両国の妄動を抑え込む構えです。それに対して中国ではこの数年財政赤字が拡大する一方で、2016年はそれが40兆円強に達し、国防費の増額テンポも低下しています。それはロシアも同様で、この10年急増してきた国防費には減額圧力が掛かっています。
一帯一路諸国首脳会議
米中ロ関係においては、当面次の点に注目していく必要があります。まず、トランプ政権と中国の間の話し合いが本格化していきます。中国は正面からだけでなく、ビジネス面でもトランプ周辺を籠絡する工作を進めていると思われます。そして、中国が5月中旬、「一帯一路諸国首脳会議」を発足させ、プーチン大統領もその際、毎年恒例の訪中を行うことになるでしょう。
なお、中ロ両国の間では、隠微な鞘当ても行われています。最近、その典型例が生じています。本年1月中国が、ロシアと国境を接する黒竜江省に長距離ミサイルDF-41を配備したことが明らかになりました。ロシアは「これは米国に向けられたものだ」と無関心を装いつつも、2月13日には中国との国境地方で、短距離ミサイル「イスカンデル」(核弾頭装備可能)の使用も含めた軍事演習を展開、明らかに中国への威嚇を行ったのです。