2024年11月21日(木)

特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年4月25日

「大学を変えるには、企業社会から変えるべき」

出口:僕は、極論ですが、どの大学も希望者は全員入学させればいいと思うんです。そして、パリ大学のようにガンガン落とせばいい。

森本:日本の大学とはまったく逆です。

出口:もし日本でそんなことをしたら、東大に殺到するかもしれませんが、卒業できないとなれば、マーケット原理が働いて誰も行かなくなります。やはり大学は勉強するところだということを徹底するためには、入学は誰でもOKで、勉強できない人は卒業証書をもらえない、というほうがはるかに正しい気がします。

森本:卒業の基準が明確なほうが、目的にかなっていますよね。われわれの大学は小さいのですが、大人数ではできない授業の質があると思って、10人から30人の授業が多いです。入学時には理系も文系も全部同じ一つの学部に入学する。そして2年間勉強するうちに何をしたいのかを見つけて、専門に特化していくんです。

出口:不勉強なのですが、文系、理系という区別があるのは日本だけだと聞いたのですが?

森本:明確な区別があるのは、日本の大学の特徴でしょう。他の国も文系の勉強、理系の勉強はありますが、日本のようにコース別になっているということはありません。理系の人も文系の勉強をしなければいけないし、文系の人も理系の勉強をしなければいけない。両方なければ円熟した人間にはなりにくいですから。

 日本の大学は、早い時期から自分は医者になるとか、弁護士になるとか決めさせるでしょう。そうして、受験のときに医学部や法学部を選ばせる。でもそれは卒業後の話なので、在学中にその学生がどう変わるかわからないのです。大学としては不誠実だなと思います。

出口:どこから変えたらいいかというと、僕はやっぱり企業社会、出口から変えるべきだと思いますね。

森本:そういうことを言ってくださると、力強いですね。

出口:普通の学生は、ちょっとでもいい大学に入ったら、いい企業に就職できる可能性が高まるというイージーな気持ちの人が大半です。それでいいと思うんですよ。でも、企業のほうが「大学で必死に勉強をしなければ採用しません」と言えば、大学で勉強するはずですよね。そこを文部科学大臣にもわかってほしいなあ。

森本:大臣は、きっと悪影響の面を言うでしょう。「大学が点数主義になってはいかん」とか。

出口:どの制度でもプラスマイナスはある。勉強しないことに比べれば、点数主義のほうがまだましです。

森本:といっても、日本の大学はなかなか改革できません。私立大学ではしばしばビジネス界のリーダーが理事になります。そうすると、大学に来て驚かれるんですよ。企業なら当然なされていることが、大学でどうしてできないのか、と。

出口:大学予算って、今2兆円くらいですね。それを文科省が分配している。世界から優秀な留学生を集めてくると国が決めたら、秋入学にするしかないと思っているんですが、それもなかなか変わりません。秋入学にしないと予算をつけないと一言言えばすぐ実現するのに。世界中の大学を春入学にする力は日本にはないのですから、世界標準に合わせるしかありません。

森本:東大もとん挫しましたが、わたしたちは60年前から秋入学をやっています。

出口:やっぱり一番は、企業の採用基準を変えること。これが大学を変える力になると思います。

森本:出口さんのようなビジネスリーダーが増えてくるといいなあ。

「今まで読んだ史上最高の読書論は、皇后陛下の『橋をかける』です」

森本:知性を身につけるために、子どもたちには自分が見知っている世界と違うものに触れてもらいたいですね。違う世界、広い世界に触れると子どもは成長します。

出口:本当にそうです。僕は本が好きなのですが、今まで読んだ史上最高の読書論は、皇后陛下の『橋をかける』に尽きると思っています。インドのニューデリーでのビデオ講演が元になっているんですよ。

森本:わあ出口さん、ご存じでしたか。僕もよく知っています。日本語でも英語でも講演なさっていますが、どちらも素晴らしいんです。しかも、もっと素晴らしいのは、ご自分で読むよりも前に、お母様に読んでもらった本のことを話されていることです。読書体験というのは、読み聞かせから始まるのでしょう。それが、幼い子どもに想像力の翼を与えるのだと思います。目の前の現実を離れて、自由に世界を飛び回る力をもつというのは、知的にも心の成長にも、とても大事なことだと思います。

出口:外国の人に「日本ってなに?」と聞かれたとき、あの講演録を渡して「これが最良の日本人だから読んでみて」と渡すと、ほとんど全員が感動しますね。

 何に橋をかけるかというと、子どもたちが本を読むことで、自分と広い世界との間に橋をかけるという意味と、心の中で自分を見直して自分と向き合うために橋をかける、という意味があります。子どもたちには、世界は広くいろいろと面白いことがあるんだから、自分の興味や関心を、自分の内にも外にも向けてほしいと思いますね。


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