欧州が問題対処能力を失うなか、事態の収拾に動いているのが米国である。オバマ大統領が折に触れて欧州首脳に電話しているばかりでない。ガイトナー財務長官が東奔西走している。5月24、25日と北京で開かれた米中戦略・経済対話で共同議長を務めた後、26、27日には英独を回って事態の収拾に動いた。
英国ではオズボーン財務相に、金融安定化に向けた欧州の具体的行動を促した。具体的行動とは、5月10日に欧州連合(EU)が合意したユーロ安定基金の中身を詰めることだ。欧州諸国は基金という形だけ整えて、資金手当てなど面倒な仕事は先送りしている。それではダメだと念を押したのである。
オズボーン氏とは米英の間の「特殊な関係」を再確認したうえで、独仏などに対して睨みを利かせることも忘れていない。その足でドイツに乗り込んだガイトナー氏は、ショイブレ独財務相と金融規制について話し合い、あえて「基本的な認識の一致」を確かめてみせた。そのうえで、「規制が景気回復を妨げないよう留意すべきだ」と釘を刺したのである。
こうした通貨外交を進める前に行った米中対話は重要な意味を持った。あえて「欧州の経済的困難」と「危機の連鎖防止」を議題に乗せ、米中の協力姿勢を明確にしたからである。1997年の山一證券破綻を機に金融危機に陥った日本に対し、当時のクリントン政権は中国の江沢民政権とがっちりと手を握り、銀行整理と不良債権処理を求めた。それと同じ手法をオバマ政権は使って欧州に圧力をかけているのだ。
したたかな中国外交
欧州の金融動乱は米中に微妙な影を落としている。中国は2008年以降、人民元をドルに再び連動させているが、ユーロ安・ドル高が進行した結果、人民元もドルにつれ高しているからだ。米国は人民元相場の柔軟性向上を求め、対ドル相場の上昇を要求しているが、中国にとっては対ユーロでの人民元上昇で大変だというところである。
むろん、この点で米中は正面衝突を避けようとしている。米中対話でもガイトナー氏は無用な圧力は避け、中国の自発的な対応を待つ姿勢をとった。中国側も米国側のそうした事情は承知しているから、いずれ人民元の問題に手を付けるだろう。その際に悩ましいのはユーロ安の加速である。
中国の通貨外交をみるうえで興味深い出来事が5月下旬に起きた。5月26日の英紙フィナンシャル・タイムズが「中国がユーロ離れを検討」と報じ、ユーロ安が加速した際のことだ。中国当局は翌27日、直ちに否定声明を発表し、ユーロ安を食い止めた。ユーロ安による外貨準備の目減りを食い止める狙いはあったろうが、それ以上に重要なのは中国の外貨準備運用におけるユーロの重要性を強調した点だ。
欧州が国際資本のユーロ離れに気をもむタイミングをとらえて、あえてユーロ重視のリップサービスをする。中国のこんな態度は、欧州に恩を売っているのが見え見えだ。その狙いは、米国が中国に人民元切り上げの圧力を強めてくるようなら、欧州は中国の味方になって下さいよ、ということにある。
もう一つ、ユーロが安くなったところで、欧州の企業を買収に出ても、文句は言わないで下さいね、というメッセージも込められているとみられる。ともあれ、欧州が体力を弱らすなかで、米中が国際金融の舞台を牛耳る局面が到来した。6月4、5日に韓国・釜山で開かれた20カ国・地域財務相会合でも、日本の影は薄い。カナダで開くG20首脳会合も然り。欧州の不戦敗という好機を生かせない日本の通貨外交は、次の金融危機にどう備えるのか。