脳の使い方は人によって全然違う
池谷:最近、脳研究の分野はちょっと面白くなってきています。たとえば今までは「コップを見たとき、脳のどこが反応しますか。机を見たとき、脳のどこが反応しますか」と、惹起される反応をパターン化し、共通する平均的な値を取って、「視覚皮質がある」とか「聴覚の皮質がある」ということをやっていました。最近の研究パターンは「そもそもなぜ平均しなきゃいけないの?」という話になっているんです。
出口:はい。
池谷:平均しないと出てこないパターンであることは確かなんだけど、逆にいえば、人それぞれで、あまりにバラバラだから平均しなくてはならないんですよ。みんなが同じような脳の活動をするのなら平均する必要はありません。それくらい脳は、人によっていろいろな活動を示します。さらに最近、脳の使い方が人によって全然違うことがわかってきたんです。
出口:それは面白いですね。
池谷:よく考えたら、僕ら、脳の取扱説明書って持ってないですよね。
出口:ええ、ないですね。
池谷:見よう見まねで使ってきている。相手の脳も、外からは見えないから学習できない。表情などは学習できるんです。笑顔ってこうやって作るんだなとか。でも、脳の使い方ってまったく習っていないんですよ。だから、自分が使っているように相手も使っている保証はない。どれくらい人と違うかというと、脳の使い方さえ見れば、その人が誰かわかるくらい違います。たとえば、匿名で100人の脳が置いてあって、コップをつかむときの脳の活動パターンを見ただけで「ああ、これはAさんね」「これはBさんね」と当てられるくらい個性豊かなんです。
出口:ええっ!
池谷:それほど個性が大きいことが、最近わかってきました。これは運動野の話ですが、「こうして活動する運動野とはいったい何だ?」というのが、今の脳科学の流れなんです。
出口:極端な話かもしれませんが、脳の使い方の教科書のような本を読んだら、賢くなれるのでしょうか?
池谷:ハハハ(笑)それはあるかも。遺伝子が揃って、脳の使い方が揃ってくると、その中に「最適解」があるはずです。
出口:確かに僕らは、脳の使い方を学校でも習ってないですよね。
池谷:ないですねえ。
出口:池谷先生が、これを書かれたら、超ベストセラーになりませんか?
池谷:それは名案! あっ、でも、いい使い方は私自身も知らないんですよ。もっと活性化したいですけど、せいぜいこんな程度にしか使えていない。
出口:脳のどこをどう使っているかというのは、自分でわかるものなんですか?
池谷:わかりませんね。たとえば今、第二次聴覚皮質を活性化させてください、と言ってもできませんよね。
出口:はい、できません。