2024年4月24日(水)

特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年5月18日

池谷:なぜわからないかというと、自分の活動パターンが見えないからです。でもMRIなどで測定して、「今、あなたの脳のこの部分が活性化していますよ」と見えるようにしておく。これはバイオフィードバックというんですが、フィードバックを与えると自分でわかります。「こういうふうに念じると、ここが活動するのか」とわかる。そうすると自分で簡単に操作できるようになります。

出口:画面を見ながら?

池谷:ええ。血圧でも同じなんですよ。今、血圧を10mmHg上げてもらえますか?

出口:えっ?

池谷:「10mmHgだけ上げてください。15mmHgじゃダメですよ、5mmHgでも失敗です」って言われても、できないでしょう?(笑)

出口:できません。

池谷:ところが、リアルタイムで測りながら見えるようにしておくと、10だけ上げたり下げたりができるようになるんです。訓練すればすぐに。

出口:すごいですねえ。じゃあ、たとえば「脳のここを使えば、勉強ができるようになって、試験に受かりやすくなる」ということもあるんでしょうか?

池谷:おっしゃる通り、脳の効率のよい使い方っていうのは、おそらく科学的に作り出すことができるはずです。

出口:いろいろな装置を使えば、脳のどこが動いているか可視化できるので、それを見ながら思考訓練をやっていけばいいんですね。

池谷:はい。あとはスポーツ選手のトレーニングにも使えると思います。

出口:じゃあ、ウサイン・ボルトの記録はまだ伸びるかもしれませんね(笑)。
今のお話を伺っていると、先生はAIと人間の脳の両方を研究されていますが、AIに資源を投入するより、人間の脳をもっと上手に使ったほうが、よい世界になるし、楽しそうだと思います。

池谷:そうですね。結局僕らは、仮想世界を生きるのではなく、現実を生きなきゃいけない。つまり、自分の脳を使って生きなきゃいけませんから。

出口:本当にそうだと思います。

池谷:チェンジはできないし、「不良在庫だから変えてください」とクレームするわけにもいかない。この脳と一生付き合わなきゃいけないので、やっぱり自分の脳をどれだけ開拓するかに、労を注ぐべきだと私は思うんですよ。

出口:それにしても、脳って面白そうですね。

池谷:面白いですよ。多少くじ運が悪かったとしても、これを使いこなすほうが面白い。じゃじゃ馬を乗りこなすようなものです。

出口:ポンコツで大した能力はなくても、運転技術を向上させて100%使いこなせば、ピカピカのポルシェに勝てるで、と(笑)。

池谷:そうそう、そうです。脳は簡単に飽和するようにできていないので、まだまだ使えるはずなんです。

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池谷裕二(いけがや ゆうじ)
1970年静岡県生まれ。脳研究者。東京大学薬学部教授。薬学博士。神経科学および薬理学を専門とし、海馬や大脳皮質の可塑性を研究。また、最新の脳科学の知見を出し惜しみせず、かつわかりやすく伝える著書は多くのファンを得ており、ベストセラー多数。著書に、『海馬』(糸井重里氏との共著)『進化しすぎた脳』『脳はなにかと言い訳する』『のうだま』『のうだま2』(ともに上大岡トメ氏との共著)『単純な脳、複雑な「私」』『脳には妙なクセがある』など。
出口 治明(でぐち はるあき)
1948年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長。日本生命保険相互会社に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2016年6月より現職。
主な著書に
『世界一子どもを育てやすい国にしよう 』出口治明・駒崎弘樹(著)(ウェッジ)、『「働き方」の教科書: 人生と仕事とお金の基本』(新潮文庫)他。


 ▼特別対談企画「出口さんの学び舎」
・木村草太(憲法学者)×出口治明(ライフネット生命会長)
・森本あんり(神学者、アメリカ学者)×出口治明(ライフネット生命保険会長)


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