施設に着くと、悦子母子を先に進ませ対面させた。由利子の口から飛び出した第一声は「あんた誰?」、そして私に気づき「ああ、やっちゃん」。
悦子は当惑し「なんで分かるん?」。頬を流れる涙も見られない。由利子が実妹に「奥はん」とも呼び掛ける場面もあり、懐旧談も長くは続かない。
皆が由利子の部屋に集まり、医師の説明を聞いた。すると次郎が「預貯金が1000万円あるそうだが、母は妹だから下ろせるはず」と言いだす。広末が「法律上そうはいかないんです。本人の前で、金の話はやめてください」。
次郎が、何度も金の話をぶり返す。私も感極まり「あなた方は私より縁が濃い。あなた方が後見人を引き受けてもいいんですよ」。「いえ、ありがとうございます」と母子。
由利子がうつむく。空気が分かるのだ。「伯母さん、面倒を見るよ。そのために弁護士先生に来てもらったの。また有馬温泉に行こうね」。私はこう言って、気を紛らわせるしかなかった。
帰り際、母子と早く別れようと思っていたら、「こんな所で放り出されても」と悦子。仕方なくタクシーで駅まで送った。「こんな所」って、実の姉の終の住み処なのに……。
その後、由利子が亡くなる14年10月まで、血族の誰一人として由利子を見舞っていない。
(つづく・狙われた預貯金、財産回収に奔走【ある成年後見人の手記(3)】)
血縁に見捨てられた認知症の伯母【ある成年後見人の手記(1)】←
Wedge3月号 特集「成年後見人のススメ」認知症700万人時代に備える
PART1:東京23区の成年後見格差、認知症への支援を急げ
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・前編:品川モデル
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・中編:「品川モデル」構築のキーマン・インタビュー
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・後編:大阪モデル
PART3:過熱する高齢者見守りビジネス最前線
Wedge3月号はこちらのリンク先にてお買い求めいただけます。
PART1:東京23区の成年後見格差、認知症への支援を急げ
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・前編:品川モデル
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・中編:「品川モデル」構築のキーマン・インタビュー
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・後編:大阪モデル
PART3:過熱する高齢者見守りビジネス最前線
Wedge3月号はこちらのリンク先にてお買い求めいただけます。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。