2022年8月13日(土)

この熱き人々

2017年9月20日

»著者プロフィール
閉じる

吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 「経営者として心がけていることはね、1パーセントの壁を守ることなんですよね。経済が49パーセント、文化が50パーセント、それに1パーセントの理念。1パーセントは小さいけれど、強くてぶれない媚びない壁であれば、経済は文化を侵すことなく共存することができる。バランスが保てる」

 経済は利益やGDPなど数字で表せるが、1パーセントの壁も、壁が守るものも目に見えない。その壁は、石積みでも鉄条網でもなく、人の心の中で時代の風に揺れる茅でできた壁。押されても、倒されそうになっても、いつの間にか元に戻っているしなやかな強さを持った壁なのだろうと思う。

群言堂本店

 松場が色紙に書く「逆行小船(ぎゃっこうしょうせん)」の言葉のように、競争力と効率と速さが主流の世の中で、その壁を守るのはたやすいことではない。道ですれ違ったこの町の老婦人が、「素敵なとこだから行ってごらん」と勧めてくれた群言堂の本店もまた、古民家を再生したものだった。松場が「商品ではなく考え方のショールームです」と言う本店は、入ってすぐには商品が見えない。土間に巣を作った燕が飛び交い、中庭には木々が茂り、それを眺めながらお茶を飲むスペースがあり、商品はメインの動線から外れたところに展示されていた。

 観光客の姿も消えた夕暮れの道で、ランドセルを背負った子供たちとすれ違った。遊びながら3歩進んで2歩下がり、実にのんびり楽しそうだ。子供だけが持っていたはずの豊かな時間を感じ、懐かしさがこみ上げてきた。こんな子供時代を守っているのも1パーセントの壁なのかもしれないと思いながら、子供たちの姿を見送った。

阿部吉泰=写真

まつば だいきち◉1953年、島根県生まれ。94年、石見銀山地域に根ざした生活から生まれる衣食住の商品を提案するブランド「群言堂」を立ち上げる。古民家再生事業を通し町並み保存活動にも貢献。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


◆「ひととき」2017年9月号より

関連記事

新着記事

»もっと見る