近年の経済成長により社会問題は深刻化の一途をたどっている?
ガーグ博士によると近年のインド経済発展により社会の病状は年々悪化しているという。その証左として現在インドで処方される医薬品では睡眠薬(sleeping pill)が金額ベースでダントツのナンバーワンという。
「経済発展が著しい都市部ほど精神の崩壊は深刻な問題となっている。人々はアメリカ人のような大量消費生活に慣らされてしまい、その結果としてローン漬けとなりローン返済の重圧の中でノイローゼに陥っている」
「さらに恐ろしいことに医薬品も試験をなおざりにして役人が賄賂の見返りに認可しているので粗悪品が横行している。」と社会システムの崩壊を警告した。
米国的資本主義(American Capitalism)を放棄して
古き良きインドに回帰すべき
話がとめどなく悲観的な終末論に向かっているので気分を転換するために「インド社会へ何か有効な処方箋(prescription)はないのでしょうか」と水を向けると博士は「計画経済の時代に戻すべき」と断言した。
「インドの経済セクターで現在でも国民生活を支えているのは国営組織・国営企業だ。費用は安価で効率的でサービスも良い。鉄道、病院、大学、水道、電気、そして軍隊。こうした素晴らしいシステムを再評価すべきだ」
「国立大学は学費ゼロだし公立病院は貧乏人でも通院できる。鉄道も安価な料金で良質なサービスを提供している」などなど博士の計画経済礼賛は続く。
ガーグ博士は現代のドン・キホーテ?
博士の年代はインド社会の急速な変化を実体験した世代であろう。博士の話は陰謀史観から演繹論的に諸問題を論じているように思えて総じて受け入れ難い内容であったが、知識人の彼は果たして外国人の私に何を訴えたかったのだろうか。
ロンドンの病院に勤務すればサラリーが5倍になるというオファーを断りインドの貧しい人々の医療に献身しているなかで日々いかなる現実に直面しているのだろうか。博士が繰り返し口にした「あなたは知らないだろうが私は医者だから問題が深刻なことが分かるのだ」というフレーズが妙に心に残った。
ヨガするロシア女子は典型的な瞑想大好き欧米人
7月7日。朝から快晴。リンゴ園を背景に遠くの山脈が朝陽を浴びている。十数キロ先のそのあたりは中印国境である。ゲストハウスの庭の芝生にマットを敷いて一人の金髪碧眼女子が無心にヨガをしていた。すらりと伸びた手足としなやかな動きは朝陽に輝いて一幅の名画のようだ。
エレーナはサンクト・ペテルスブルグ在住で案の定ヨガのインストラクター。インドで修行して資格を取得した本格派だ。部屋の中ではマントラ音楽を聴いて精神をリラックスして瞑想している。食生活は当然ベジタリアンでランチはバナナとマンゴのみ、夕食は市場で買った生野菜という徹底ぶりだ。
日本のオジサンとしては理解し難い境地である。エレーナによるとヨガとは単なるエクササイズではなく“生き方そのもの”らしい。食生活、呼吸法、心の持ち方などすべてをヨガ的に生きることで到達できる境地という。
大事なのは“今という瞬間を生きる”ことに集中すること。すなわち“明日のことを心配したり、昨日のことを悔いたりする”ことは無駄という。こうした心の持ち方は仏様の教えやアドラー心理学と共通するようだ。
「毎日夕陽を見ながらビールを飲んで幸せを満喫するのが私の瞑想法だけど、どう思う?」と私は自説を披露した。するとエレーナは「それは素晴らしい方法だわ。生きている歓びを追求することが瞑想の目的ですから」と微笑んだ。
⇒第8回に続く
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