インドで本格的ビール醸造を目指す米国人
6月20日。デリーの日本人宿に珍しく欧米系男子が入ってきた。髭面でギターケースとトランクを持参していた。ジムと名乗りイリノイ州出身米国人でインド滞在12年という。インド北部でビール醸造を起業するべく計画中。NYで大学にいたころインドを放浪してインドにのめり込んだらしい。
インドではKingfisherというナショナルブランドのビールが幅を利かせているが正直なところ「味はそこそこ」という代物。ハイネッケンやツボロフなどが現地生産しているが高い割には旨くない。
ジムはインドで本格的ビールを造ろうと決心してドイツで醸造学を修めた。最初はボンベイで起業したがパートナーのインド人と意見が合わず失敗。
インド人は酔っぱらうためにビールを飲むのでアルコール度数の高いストロング・ビール(7%~9%)を大量生産するべきとパートナーは主張。ジムは味(taste)にこだわり5%程度のピルスナーに固執。結局中途半端なビールになってしまったという。
私はその後、3カ月インドを歩いてビールを飲むたびにジムの失敗談を思い出した。ビールは各州政府が宗教上、道徳上の配慮から高率課税していることもあり外国人にとっても価格的にかなり割高なのでストロング・ビールを買ってしまうことが多かった。
リシュケシは瞑想とヨガの聖地というが……
6月24日。デリーの暑さにすっかり参ってしまいインド一周という当初の計画をあっさりと断念して涼しい高地に行こうと北インドを目指すことにした。まずはガンジス河が滔滔と流れるヒンズー教の聖地リシュケシを目指してハリドワールまで列車移動。外国人専用窓口で事前予約した座席は空調も効いて快適。
駅からバス、オートリキシャ(オートバイと人力車を組み合わせたような乗り物)を乗り継いでリシュケシに到着。聖地はヒンズー教徒と神聖なる牛が狭い道に溢れており、例によってゴミが散乱、埃っぽく、悪臭が漂っている。
6月25日。道端のチャイハネ(茶屋)でチベット・ティーを10ルピーで頂く。粗末な木製ベンチに腰掛けてお茶を飲んでいるとカップにやたらと蠅がたかる。手で追い払ってもチベット・ティーのミルクや砂糖を求めて無数の蠅がカップにたかるのである。
聖地の道という道は神聖なる牛の糞尿によりキツイ臭気で覆われている。空気が淀んでじめっとしている。そのうち蠅も気にならなくなり「まー、いいかっ」という諦観と脱力感を覚える。
ビートルズも修行した伝説の聖地、リシュケシ
リシュケシでは半裸の行者があちらこちらの木陰で瞑想したり修行しており、また多くの欧米人旅行者もアシュラムという瞑想&ヨガを学ぶ修行道場のような施設に数週間から数カ月滞在している。
リシュケシが欧米人の聖地となったのはビートルズがこの地で瞑想修行生活をしたことから有名になったようだ。
1968年の2月に4人はそれぞれパートナーと一緒にリシュケシ入りした。リンゴ夫妻は食事が不味くて10日ほどでギブアップして帰国。ポールは恋人と1カ月滞在。ジョン夫妻は4月まで約2カ月滞在。ジョージ夫妻は5月頃まで滞在したようだ。
リシュケシはヒンズー教の聖地なのでアルコール、肉類は一切禁止である。しかも、なぜか食堂やホテルでは豆とジャガイモのカレーのようなものしか出てこない。他にはヨーグルト類が一般的である。つまりお茶、豆芋カレー類、ヨーグルト、ナン、ライスばかりを毎日飲食するという生活である。
町の八百屋では葉野菜、トマト、ナス、キュウリ等が並んでいるのであるが不思議なことに食堂やホテルではこうした野菜類はほとんど提供されていない。リンゴ・スター夫妻がよくぞ10日間も我慢できたものだと逆に感心してしまった。正直なところ3日で単調な食生活に飽きてしまい逃げ出したくなった。
アシュラムで1カ月修行すれば体を組織している成分がすべて入れ替わり異次元の世界観に到達できるかもしれない。