ベジタリアンは平和主義者?
アキレーシュによるとインドでは菜食主義者が一般的であるが理由は宗教的禁忌というよりインドの人々が何千年もかけて心身ともに健康的になるための食事療法を追求してきた結果と理解すべきという。
菜食は健康に良いという科学的根拠もあり、さらに菜食は精神面でも効果があり怒り、妬み、恨みという気持ちを緩和し攻撃的感情を抑制すると力説。アキレーシュの真面目な顔を見ていると知識の乏しいオジサンとしては反論できず大人しく聞いていた。
たしかに菜食は心身ともに効用があることは多くの欧米人ベジタリアンから嫌というほど聞かされている。私自身野菜は好きだが菜食生活はたとえ数日でも我慢できないだろう。日本人として寿司、刺身、ラーメン、焼き肉をすべて断念して生きることは想像できない。特にビールやお酒を美味しく頂くためにはお肉類、海鮮類は食材として不可欠である。菜食は同時に禁酒を意味するので普通の日本人には至難の食生活であろう。
ベジタリアンの急増が社会にもたらす影響
近年欧米ではベジタリアンが増加しているようであり、特に若い知識人層に急増しているようだ。どこを旅行しても欧米系若者はかなりの確率でベジタリアンである。私が特に注目しているのは子供のころはベジタリアンではなかったが、高校・大学・社会人となる過程で菜食の効能を知って心身の健康のためにベジタリアンに転向したという若者が大半であることだ。
禁煙が普及したプロセスと近似しているように思われる。欧米先進国の専門家が喫煙の害について啓蒙運動を始めてから先進的知識人や学生を中心に急速に禁煙が広がり社会の一般通念となった。日本でも今から30年前はレストランでも会社でも随時喫煙が容認されていたが、現在では愛煙家は狭い檻の中で限定的に喫煙を許容されるという社会になった。啓蒙運動開始から法制による制限までわずか50年で社会が変容したのである。
アキレーシュの熱烈な菜食主義礼賛を聞いて欧米におけるベジタリアンの急増というトレンドが与える社会的影響について杞憂とは思うが思いをめぐらした次第。
インドを知りたければ“ラーマーヤナ”を読め
アキレーシュは時間があると分厚い本を読んでいた。1970年代のベストセラーの再版本とのこと。この本はヒンズー教およびインド伝統の哲学・規範などをまとめたものであり5000年前のラーマーヤナの物語にインドの思想のすべての源流があるという。
インド社会の急速な近代化の奔流のなかで先進的知識人のアキレーシュはインドの古来の思想、伝統的価値観、社会規範といかに折り合いをつけていくか懸命に模索しているように思えた。
⇒第12回に続く
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