日本メーカーの有機ELテレビの位置づけ
2000年以降、液晶テレビの普及に伴い、いろいろな開発投資を行った日本メーカーのテレビ事業部は赤字を出すようになる。要因の1つに市場価格のそれまでにない下落があげられる。昭和の時代、21インチ以上は1インチ1万円と言われて、それなりに安定していた。それが、今の時代、最先端の4K液晶テレビが、限定販売であるが5万円台で売りに出される時代だ。
価格下落の要因は幾つかあるが、大きな理由として「デジタル化」がある。例えば、4Kの液晶パネル。4Kの解像度を満たしたパネルは、日本で作ろうが、中国で作ろうが品質差はあまりない。しかしテレビでは画質差が出てくる。それは画質コントロールだ。冒頭、HDRという規格名を上げさせてもらったが、実は、HDRを採用した場合、今のテレビでは、全ての色再現はできない。それほど色数が多いのだ。このため、どの範囲を、どの様にカバーするのかなどでメーカー差が出て来る。同じ戦闘機を用意しても、パイロットの違いが戦闘能力に差になるのと同じだ。
しかし4K液晶テレビはすでに値が崩れている。ここで根を張りなおすのは、HDR導入があるとは言え大変なことだ。このため日本メーカーは、こぞって有機ELテレビの値を、適正価格に留めようとする方向に出ている。「ブランド」+「性能」=「プレミアム」と位置づけ、高く売ろうという考えだ。
確かに、画質はLGよりいいし、筆者の眼から見ると「欲しい。」と思う。しかし、仕事仲間は「どこが今までのテレビと違うのかわからない」と言う。画質にこだわりの少ない彼に言わせると、「LGの方が新しい」という。確かに、薄いし、壁掛けだし、おまけにDA搭載だ。
日本プレミアムは、高く買ってもらい続けることができるか?
基本的に、買替え需要以外で、ユーザーがお金を出してくれるパターンは4つだ。
1)新しい世界を提示する「新製品」。例えば、VR機器などだ。全く違う世界、体験に人を誘う。これは市場全体が対象になるし、買い換え時期などは考えなくてもよい。
2)「高品質品(プレミアム品)」。今回の日本の有機ELテレビはこれに当たる。ユーザーは、その品質を欲していた人。マニア、ファンと呼ばれる人が対象になる。価格にもよるが、多くて全体の10%以下のシェアが一般的だ。
3)次は「セレクト品」。セレクトショップが販売しているモノと考えればいい。こちらは流行を敏感に捕らえる人が対象となる。流行に乗った商品はバカ売れとなるが、セレクトショップは、流行の先端にいてこそのセレクトであり、売り切り御免の世界。ライフスタイルを大切にする人もここに含まれる。こちらも、多くて全体の10%以下のシェアが一般的。
4)最後は「高級品」。「ブランド」が最も威力を発揮する分野であるが、そうなるまでには、伝説的な後日定番となる製品を出す必要がある。また品質がいいことも必要だが、「欠点がない」商品であることが重要だ。技術的にスゴくても、その技術を常識的なやり方で使えない限り「高級品」とならない場合が多い。例えば電子レンジ。マイクロ波を使うためアルミホイルが使えないなどの欠点を有する。これは知らされない限り分からない。知らなくても使える=欠点がないということは、新しいモノに目移りせずに済むと言うことで、長期に使える。少々高くても、お得ということにもなる。お金持ちは全体の5%以下と少ないが、最も固定化率が高い層だとも言える。
今、日本メーカーの有機ELテレビは(2)。ソニー、パナソニック共に販売も好調だと聞く。が、この9月シャープは、8Kテレビを発表し、マニアの興味はそちらに移行しつつあるのも事実。そうなると売れなくなる。値を下げる。と言う負のサイクルが出てくる可能性は否めない。
デジタル化された黒モノ家電は(1)(2)双方が組み合わされると、値崩れせず、支持される。「新しい体験」と「技術に支えられた高品質」が需要を支えるのだ。しかし現実は、かなり意識しないとそのレベルに達することはできない。