調査を進めるうちに気づいたのは、この差はもしかして川の水に入るかどうかじゃないか、ということでした。見ていたら、川によく浸かるのは、子供と女性だったんです。子供は水遊び。女性は水汲みと洗濯。男は村でぼーっとしているだけで、あまり川に入らないんですね。
●働き者が感染して、怠慢な人が感染しないなんて不公平ですね。
——この調査を経て、免疫とかなんとかの生物学的な解釈をするよりも、社会的な背景をもった行動学的な解釈をしたほうがいいんじゃないかと思ったんです。感染症の研究者は主に生物学的なアプローチをとりたがるもので、個体差はあまり考えません。どうしてこの人は感染したのにあの人は感染しなかったんだろう、とはなかなか思わない。
でも実際は、行動によって感染の有無が決まっていた。感染症がうつらない方法として、ワクチンを接種して予防するやり方もある。だけど、行動を制御するやり方もあるはずだと気づいたわけです。私は人の行動さえ変えればこの住血吸虫症は十分に防げるという結論に到りました。高いお金をかけてワクチンを開発して生産して配布しなくても、行動さえ制御すれば十分に防げるんだと。
ただ反省点はいっぱいありました。簡単に言えば、明らかにできたのはあくまで相関関係だけで、原因と結果までには行き着けなかった。だから、あまりいい雑誌にはアクセプトされませんでしたね。この後、産業医大の教授に転身したので、私の研究はひとまず終わりとなりました。
⇒後篇につづく(10月19日公開予定)
嶋田雅曉〔しまだ・まさあき〕
長崎大学熱帯医学研究所教授。ケニア中央医学研究所訪問研究員。ケニアプロジェクト拠点にて寄生虫学・疫学を研究している。
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