吸虫は毎日卵を100個ほど生みます。卵の大きさは150ミクロン。子孫を残すために、吸虫の卵は人の体の外に出ないといけません。
●あれ? 人間の血管の中でふ化して増えていってもいいのでは?
——寄生生物にとって重要なのは、宿主を乗り移ることです。なぜなら、宿主が死んだら自分も死んでしまうから。感染症のポイントはここです。もしも吸虫が宿主の中で100匹、10000匹と増えたら、宿主はすぐに死んでしまう。それは吸虫にとってよくない。だから、卵のまま外に出すわけ。吸虫の場合は宿主を殺さないで他の宿主に移るのが宿命です。
卵が体内から外に出られるのは、卵が血管内にひっかかって血流が閉ざされて潰瘍ができ、粘膜が腸の中や膀胱の中にはがれておちたときだけ。排泄物、ウンコやオシッコの中に卵が出てくる。体外に出ても、地面に出たものはすぐに死にます。ですが、それが淡水に入るとそこでふ化します。
住血吸虫の幼虫は、川や湖にいる巻貝に入ります。1匹の幼虫は、貝の中で分裂して数千〜数万に増える。増えた幼虫は1カ月くらいすると貝から水中に出てきて、これが今度は人に入ります。水中で皮膚を溶かして入って血管に入り、好きな箇所までたどりついたらそこに住み着いて約1カ月で成虫に成長し、そこで卵を生む。これが住血吸虫のライフサイクルです。
●貝に入った状態で人間に食べさせたほうが効率よさそうですけどね。
——それは考え方しだいで。口から食べないといけないというのは、けっこう簡単なことじゃない。胃液で溶けてしまうかもしれないし。言えるのは、この虫はこういう生き方を選んだということ。そういう仕組みの病気が住血吸虫症です。
感染症を予防するには、いくつかのアプローチがあります。薬とワクチンが大きなトレンドですが、私が取り組んだのはこれとは違うアプローチでした。
水に入って感染するなら、ケニアの人はみんな感染するのかなと思って現地で調べてみたんです。そうすると、年齢と感染率の関連が見えた。子供のときはほぼ100%感染して、大人になると感染率が減っていました。もう一つのポイントは男女差があったこと。