今回は、「365日24時間態勢」の機能強化型在宅療養支援診療所・恵泉クリニック(世田谷区)の事務局長の内田玉實(たまみ)さんにインタビューをした。私は、20年前の1997年からクリニックの創業者であった内田さんを取材してきた。
今回のインタビューでは、医師と看護師を「上司と部下の関係」という視点からあぶりだしたい。大学病院のような態勢が整っているところではなく、医師や看護師が30人前後の在宅医療クリックを選んだ。読者諸氏は、何を感じるだろうか。
不満? そんなの感じませんよ。あの頃は、目標があったから
あの頃(1990年代)、私はこの在宅医療クリニック(当時は、「沖田ビルクリニック」と呼んだ)の事務局長兼看護師で、院長である医師の部下でした。院長からすると、「使える部下」というよりは、「都合がいい部下」だったんじゃないかなと思います。「便利」と見られていたのかもしれませんね。
介護保険が2000年に始まる前の時期ですから、都内に365日24時間態勢の在宅医療クリックはほとんどなかった。院長の下に私のほか、10人前後の看護師がいたのです。365日24時間態勢のもと、あの頃は私1人でフル稼働でした。その後、ようやく、ローテンション勤務することができたのです。激務ですから、疲れてしまうんです。
私は、1年間で休暇が数日だった。午前8時頃にクリニックに入り、午後10時ぐらいまでいた。家に帰った後、深夜の2時や3時に、患者さんのご家族から電話があり、急いで向かうことが多かったのです。
院長も駆けつけます。院長も、休暇は1年で数日。午前9時頃から午後9時ごろまで相当に忙しくされていました。私たちは、患者さんのために役立ちたいという思いでした。
私が、クリニックの実質的な経営者でした。経営のために、親から譲り受けた遺産を出資しました。家族からは、「いい加減にしろ!」と怒られたこともあります。
いたらないこともあり、院長から叱られたり、怒鳴られたりもしました。辞めていく看護師もいました。それでも、人前では、私は「院長先生のおかげで…」と顔を立てていました。それが、部下というものでしょう。医師はどのような方であろうとも、看護師よりは立場が上です。
不満? そんなの感じませんよ。あの頃は、とっても楽しかった。目標があったから。在宅医療をきちんとやりたい。病気であろうとも、家ですごしたい方の役に立ちたかった。
院長と私が2人で患者さんの家に行くと、院長が気付かないことがある。それを私が誘導できるときがあります。たとえば、患者さんやご家族が「こうしてほしい」と願っています。「こういうふうにしてもらえると、とても助かるんですって」と院長に言って、気づいていただく。そんなところに、やりがいを感じていました。