2024年12月22日(日)

前向きに読み解く経済の裏側

2017年11月18日

 投資の失敗で、老後のための貯蓄が減ってしまっては大変です。では全額を銀行預金にしておけば良いかと言うと、そうでもありません。今回は、『老後破産しないためのお金の教科書』の著者である塚崎が、老後資産の運用心得を説きます。

(wildpixel/iStock)

インフレに備えよう

 賭け事が好きな人でも、大事な老後の蓄えを賭け事で増やそうという人はいないでしょう。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」ですから、老後の蓄えは、増やそうと頑張るのではなく、むしろ大きな損をしないように心がけるべきです。

 では、全額を銀行預金にしておけばよいか、というと、そうではありません。現金も銀行預金も、インフレで目減りする可能性を考えれば、リスク資産なのです。

 バブル崩壊後の日本経済は、長期にわたりデフレが続きました。その後も、日銀が必死に努力してもインフレ率が上がってきません。このまま永遠にインフレ率は2%にならない、と考えている人もいるかもしれません。しかし、筆者はそうは思いません。

 少子高齢化と景気回復により、労働力不足が深刻化しています。非正規労働者の時給はすでに上昇しはじめており、中小企業の給料や若手サラリーマンの給料も上昇しはじめています。そして、人件費上昇がインフレの原因となりつつあります。ヤマト運輸の値上げに同業他社が追随したのが日本のインフレ時代の号砲であったのかも知れません。

 今ひとつ、資産運用を考える際には、リスクシナリオについても備えておく必要があります。大地震と大津波で東京、大阪、名古屋が壊滅的な打撃を受けたら、物価が何倍にもなるかもしれません。可能性が高いとは思いませんが、備えておくべきリスクであることは間違いないでしょう。

最強は物価連動国債だが、額面が1000万円

 インフレに備えるための最強の味方は、物価連動国債です。償還金額が消費者物価指数に連動しますから、償還時に物価が2倍になっていれば、物価連動国債が額面の2倍で償還されるのです。その上、日本政府が破産しない限り、最悪の場合でも(物価が下がっても)、額面で償還されますし、金利もわずかですが付きますから、安心です。

 もっとも、問題もあります。一つには、物価連動国債は額面では購入できないということです。市場で流通している物を証券会社で購入することになるのですが、額面100円の物価連動国債が105円前後で取引されているのです。従って、105円で購入した物が満期時に100円で償還される可能性があるわけです。まあ、これは「保険料」だと考えれば、軽微な問題だと言えるでしょう(実際は複雑なのですが、詳述は省きます)。「どれほどインフレになっても資産が目減りしない保険」に加入できるなら、これくらいの保険料は安いものでしょう。

 今ひとつの方が深刻な問題です。現在の所、1000万円単位でしか購入できないのです。そこで、庶民のインフレ対策には使いづらいのですが、「60歳で退職金を受け取ったけれど、その後も数年間の生活費は働きながら稼ぎ、退職金は温存したい」といった場合には、退職金の運用先として要検討です。

株と外貨に分散投資するのが基本

 現金や銀行預金には、インフレで目減りするリスクがあります。株や外貨はインフレに強い資産だと言われていますが、値下がりのリスクがあります。いずれもリスク資産なのであれば、「少しずつ持つ」ことで大損するリスクを避けましょう。

 全財産を現金と預金で持てば、インフレで目減りした時の打撃が大きいですし、全財産を株や外貨で持てば、値下がりした時のダメージが大きいですが、どれもバランスよく持っていれば、最悪の事態は避けられます。「インフレになり、株が値下がりし、ドルも値下がりする」という可能性もゼロではありませんが、どれか一つだけを持っている場合に比べれば、はるかに安心です。

 あとは、預金と株と外貨の比率をどうするか、でしょう。筆者はインフレが怖いので、株と外貨の比率を高くしたいと考えていますが、株と外貨は値下がりが怖いので、比率を低くしたい、と考えている人も多いでしょう。そのあたりは、各人の判断で良いと思います。

 その際、サラリーマンには退職金が出るのだ、という事を考慮して比率を決めるのを忘れないでください。現在の金融資産に占める株や外貨の比率よりも重要なのは、退職金を受け取り、住宅ローンも完済した後にどういう比率で金融資産を持つべきか、ということです。言い方を変えれば、退職金(マイナス住宅ローン)は、会社に預けてある定期預金なのですから、この分も計算に入れて株やドルの保有量を決めましょう。極論に聞こえるかも知れませんが、普通のサラリーマンは、銀行預金をほとんど持たなくても良いくらいです。退職金が出た段階での保有資産割合がちょうど良くなるように、現役時代は株やドルのウエイトを高くしておく、というわけです。


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