経験と知識を活かす問いかけの力
では、経験や知識が増えれば増えるほど、解決が遠のくジレンマに陥ることを防ぐには、周囲の人はどんな手助けができるでしょうか。
私は、問いかけることが一番の助けになると思っています。
経験があり、知識を持っている人ですから、周囲に必要なことは与え教えることではありません。本人が気づくきっかけを渡すだけで良いのです。
たとえばこんな問いかけです。
「計算間違いを繰り返すということですが、間違える手前まではどのように出来ているのですか?」
「やる気を見せないということですが、何をしている時はやる気を見せますか?」
「やる気を見せている時の本人の様子を教えてください。その時本人はどんなことを考えていそうですか?」
「これぐらいはして当たり前とお母さんが思っていることのうち、本人が当たり前だと知っているのはどれとどれですか?」
「60分間集中し続けられるようになって欲しいと思われる気持ちはよく分かります。そうなるといいですね。それで、現状についていえば実際のところ、本人は集中を何分ぐらいなら持続できるのですか?」
講師たちとのミーティングでも、私はこのような問いかけを頻繁に行うのですが、問いかけられた側は一様に、生徒の実際の姿を思い出そうとして指導時の記憶をたどります。
そして、「あっ」という表情と共に、「そういえば、~~の時は~~の傾向があるかもしれません」と話しだしてくれたり、「今思い返すと、最初の段階で『分からない問題は解説するからどんどん解消していこうね』とスタートさせてしまって、本人がどんな時に分からなくなりやすいのかを聞き忘れていました」と自分自身の振り返りを行えたりするのです。
問いかけられることで、現状の把握と分析をやり直すことができたのですね。
そしておしなべて、「早く次の指導日が来て欲しい」とウズウズし始めます。今ならもっと見てあげられる、気づいたことを基に、どんな方法が取れるかを今なら相談できるという気持ちがわいてくるからです。
問題の解決も、目標の達成も、最終的には本人が本人の行動によってたどり着くものです。そのことは、子どもであれ社会人であれ変わることはありません。
しかし、私たち講師や、親、上司は、経験が増えるにつれて、答え(だと自分が思うこと)に自信が出てくるために、与えたくなってしまいます。
知識が増えると、当人が見つけ出すのを待てずに教えたくなってしまいます。
でも、そうして与えることで得られる解決も達成も、こちら側が自分の頭の中で設定した世界での答えでしかなくて、当人のものにはなっていません。
大切なことは、本人自身の姿と思いをありのままに見ることです。
現状を正面から見て、分析して、本人がどこに向かおうとしているのかを正確につかんでから、自分の経験と知識を使わせてあげること。
それが教え上手、導き上手の条件なのだと思います。
そんな教え上手、導き上手を育てるために、私自身もますます問いかけ力を磨いていきたいと思います。
さて、早いもので2017年もあと少しとなりました。
この連載にお付き合いいただいている読者の皆様に改めて感謝すると共に、2018年もさらに子育て、人育ての提案を続けていきたいと思います。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
新年最初の記事は、「子育てに心のゆとりを取り戻す自分観察のやり方」をお話しさせていただきます。お楽しみに。
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