2022年12月5日(月)

定年バックパッカー海外放浪記

2017年12月31日

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高野凌 (たかの りょう)

定年バックパッカー

1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。

11世紀創建のアルチのゴンパ(仏教寺院)

チアキはアテナのことを何も知らない

 8月27日。チアキとアテナが長期滞在しているゲストハウスに遊びに行った。キッチン付きで大きなリビングルームもあり快適だ。アテナは一週間の予定で友人とトレッキングに出かけている。当然その費用もお小遣いもすべてチアキが出している。

 私はそもそもアテナがどんな人間なのか気懸りであった。チアキに聞くとバンガロールの出身で両親家族もバンガロールに住んでいることしか知らない。当然アテナの家族には会ったこともない。アテナの学歴も知らない。

 チアキは自分の英語力では具体的に問い質すことも難しいと言い訳したが、チアキはアテナについて“本当のこと”を知ることが怖いのではないか。

チアキがアテナに夢中になった“わけ”

アルチ・ゴンパに描かれた11世紀の曼陀羅壁画

 チアキに2人の馴れ初めを聞くと納得できた。半年前にチアキは1人で初めてインドを旅行した。そしてバンガロールのスポーツショップのイケメンの店長に一目惚れ。直ぐに恋仲になったが、「大変な問題に巻き込まれた。至急お金が必要だ」と言われてチアキは言いなりに大金を出した。その直後店長に妻子がいることを知って騙されたことに気付いた。

 傷心のチアキはスポーツショップに出入りしていたアテナと知り合った。「アテナって他のインド人と違うんです。女に対してガツガツしたところが全くないし。私にお金を要求することもないし。純粋で優しくて一緒にいるだけで癒されるんです。でも仕事がないのでお金もないの。だから私がお金を稼いで何とかしないとダメなの」

 「でもそれってアテナは“ひも”だよね。自分は働かなくて女に働かせるって」と指摘すると「違いますよ。彼は何も要求しないし、旅行だって私が一緒に行きたいと頼んだから旅行しているわけだし」

チアキの夢見るアテナとの未来は

アルチ村のゲストハウスのテラス

 チアキは将来インドでアテナと暮らすことを漠然と夢見ている。「どうしたらインドで2人の生活費を稼ぐか考えているんだけど。料理が得意だから日本料理屋をやろうかな。最初はお弁当屋くらいから初めて。日本で頑張ってお金貯めて開業資金にして」

 オジサンからは「日本料理は誰でもできるからいずれ競争相手が出てくるよ。それよりバンガロールの日系企業の日本人駐在員奥様向けに、エステを開業したほうが稼げるよ。開業資金は必ずアテナか彼の家族に半分は負担させることが絶対条件。彼に責任持ってマネジメントをやらせないと」とアドバイス。

 「けど彼ってお金ないし、それに働くのダメそうだし」とまったくアテナを当てにしていない様子。何か彼に無理を言うと逃げられてしまうと心配して将来設計の核心の問題を心のどこかで避けている。“チアキが自分で稼いでアテナに一緒に暮らしてもらう”という考え方から抜け出せないようだ。

 「ちょっとキツイこと言うようだけど、チアキのお金が無くなってチアキがいなくなってもアテナは何も困らないじゃないのかな。好きなロッククライミングや山登りをしていれば幸せのようだし。それってやっぱり対等の男女の関係じゃないよね。チアキがお金でアテナを繋ぎとめているだけのように思えるけど」

 「よくわからないけど、今はこのままの幸せな時間が続いてほしい。それだけしか考えられない。今回の旅でお金を使い果たしたら、日本に戻ってお金を稼いで直ぐにインドに戻ってくるわ」それがチアキと話した最後であった。

チアキの物語のエピローグ

 半年後のある日、フェイスブックでチアキの動静が分かった。チアキはレーで長逗留したあと数カ月アテナと旅行。12月にインドを出国してタイのバンコクで女友達と合流。そして何とバンコクの日本人ビジネスマン向け高級クラブでホステスとして働いて短期間で相当のお金を稼いだ。そして1月にインドに戻りインド南部のゴアのリゾートでアテナと過ごしていた。

 チアキが貢ぎ続ける限りアテナとの関係は続く。彼女はそれを望んでいる。

⇒第23回に続く

  
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