2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月17日

 12月6日付のProject Syndicateで、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が、北朝鮮問題の収拾案を論じています。北京発となっているので、中国の関係者との意見交換の結果も踏まえてのものでしょう。要旨は以下の通りです。

(iStock.com/Chad Baker/AlexLinch/Wavebreakmedia Ltd/jennythip)

 北朝鮮は「火星15」型ミサイルの発射実験を行った。より水平に発射すれば、米国東海岸に到達し得る。北朝鮮はミサイルの大気圏再突入技術を未だ獲得していないが、実験後、核打撃能力を完成し核保有国になったと宣言した。

 ここで、北朝鮮についての基礎的事実を列挙しておこう。まず、金正恩は正気であり向こう見ずではない。彼は米国と核戦争になれば、自分の支配は終わりになることをよく心得ている。次に、北朝鮮の核兵器の脅威は、米国にとって急に高まったわけではない。以前から北朝鮮は、核爆弾を例えば貨物船で米国に届けることができたのである。第三に、北朝鮮は通常兵器だけでソウルを破壊できる。1994年、米国は北朝鮮の寧辺核燃料再処理施設を破壊しようとして、このことを認識したのである。

 中国は、freeze for a freeze方式を提案している。これは、北朝鮮が核・ミサイル開発を凍結する代わりに、米国は韓国との年次共同演習を控えるというものである。もし、北朝鮮がこれで本当におとなしくなるのなら、これでもいいだろうし、平和条約を結んでもいいほどだ。しかし、北朝鮮は現状に安んじる国ではない。北朝鮮は米国を核ミサイルで脅して、米韓離間をはかろうとしている。従って中国案を採用すれば、米韓の絆は弱まり、北朝鮮は2010年に韓国の哨戒艇を撃沈したように、通常兵器を使って韓国への圧力を強めてくるだろう。

 従って、米国が取り得る措置は以下の程度しかない。

 (1)マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官が言及している限定的な予防攻撃である。しかしこれは、エスカレートする危険性を持っている。

 (2)制裁強化。しかしこれまで、制裁は、北朝鮮の核開発を止められないでいる。中国は国境での混乱や米軍進攻を嫌って、食糧と燃料の完全禁輸をしていない。

 (3)冷戦時のGRIT、つまりgradual reduction of international tension(漸次ガス抜き)である。米国は中国に対して、北朝鮮に軍を本格的に進めることはしないと約する一方、中国は米軍の活動を容認し、一方で経済・政治的圧力を北朝鮮にかけて直近の脅威を凍結させるのである。

 (4)そのうえで、北朝鮮が韓国に対しておとなしくしていれば、米国は演習規模を縮小していく。北朝鮮が韓国との緊張緩和を受け入れれば、平和条約交渉を始めてもいい。その時米国と中国は北朝鮮を実質的な核保有国として認めると同時に、将来は朝鮮半島を非核化することを共通の長期目標として確認する。北朝鮮が合意を破れば、中国が食糧・燃料面での制裁を行う。

 このような中国頼みのシナリオが成功する見通しは大きくない。しかしそれが失敗しても、米国が酷く困ることはない。冷戦時代には、地理的に孤立していた西ベルリンを30年間も守ることができた米国である。米国は韓国、日本との同盟によって防衛・抑止能力を強化すればいいのである。日本には5万人、韓国には2万8千人の米軍がいる。北朝鮮は韓国、日本を攻撃すれば米軍将兵を殺すことになる。それは米国による全面報復を招き、金体制が終わる日になることを、金正恩はよく知っている。

出典:Joseph S. Nye ‘Understanding the North Korea Threat’(Project Syndicate, December 6, 2017)
https://www.project-syndicate.org/commentary/understanding-north-korea-threat-by-joseph-s--nye-2017-12


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