融和か支持基盤か
演説でトランプ大統領は、支持基盤である労働者を意識しながら経済における成果について述べると、即座に貿易、インフラ投資及び移民制度改革に言及しませんでした。国歌や国旗に対する忠誠心を持ち出して、愛国心に訴えたのです。
しかも、「我々は神を信じる」という標語まで用いて、警察官、退役軍人及びキリスト教右派といった支持基盤固めを狙ったのです。トランプ大統領は、今回の一般教書演説で「安全で、強く、誇り高い米国を一緒に作っていこう」と国民に融和を訴えかけましたが、実は支持基盤固めを行っていたということです。
演説の流れからすれば、経済の後に、貿易、インフラ投資、移民制度改革を語るのが自然です。にもかかわらず、なぜ愛国心を挟んだのでしょうか。
トランプ大統領には、移民制度改革の提案を行う前に、自分は国歌や国旗に敬意を払っており、愛国心があるとアピールする必要があったからです。「国家及び国民を守る」というメッセージを発信して、移民制度改革と愛国心を結びつけたのです。そうすることによって、説得が容易になると考えたのでしょう。
「自由」の松葉杖
1時間20分にも及ぶ演説でしたが、外交問題が語られたのは、約1時間が経過してからです。まず、過激派組織「イスラム国」(IS)の支配地域の奪還、次にテロ容疑者を収容しているグアンタナモ米軍基地の収容施設継続を発表しました。その後、イスラエルの「エルサレム首都移転」承認、イラン核合意、キューバやベネズエラに対する制裁に関して語り、やっと北朝鮮問題について述べました。
トランプ大統領は、「北朝鮮の無謀な核開発がまもなく米本土にとって脅威に成り得る」と警告した後、「そうならないように、最大限の圧力をかける作戦を展開している」と主張しました。対北朝鮮政策に変化はない、という強い姿勢を見せたのです。
トランプ大統領が演説会場に招待した松葉杖の脱北者ジ・ソンホ氏を紹介すると、彼は右手で松葉づえを高く掲げました。米国民にとって、この松葉杖は「自由」を獲得した象徴に映ったことでしょう。トランプ大統領は、ここでもゲストを効果的に活用し、人道的な大統領を演出して民主党に対抗したのです。
今回の一般教書演説は、率直に言ってしまえば、建前が融和で、本音が支持基盤固めであったといえます。
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