日産、神戸製鋼所の不正発覚後、その波は三菱マテリアルや東レ、旭硝子の子会社に波及し、日本のものづくりの信用が大きく揺らいでいる。こうした不正が発生する根本的な原因は「倫理観」の欠如であり、会社の信用を一瞬で失墜させる重要な問題だ。それゆえ倫理観こそ、企業活動の基点となる経営理念として定め、最も注力して厳守すべき部分だろう。
その意識を浸透させるためには、企業倫理をしっかりと従業員に「認識」させ、厳守状況を「監査」するという二つの観点が重要だろう。
私がエルピーダメモリのCEOになったとき、従業員に企業倫理を認識させるために、メールを送る際には必ず経営理念を記載するルールを全従業員に強いた。これにより、社員への意識づけとともに、自社の目指す理念を社外の方々にも明示した。ただ理念を定めるだけでなく、業務の中で常に意識させるように徹底することが重要だ。
次に、企業倫理の厳守状況の監査についてだが、組織は頭から腐っていく。従業員は常に上司の仕事ぶりを見ているため、上の者が襟を正すことが肝要だ。
私がテキサス・インスツルメンツ(TI)で働いていたときには、部長職以上に対して、その二つ上の職位の者が監査を行う制度があった。直上の者だと普段からの関係性が強く、厳正な監査ができない恐れがあるからだ。この方法で資産の不当流用、利益相反、接待など、倫理観に基づく監査が行われた。
監査時に倫理違反が発覚することは稀(まれ)だが、職場内の噂などから監査時の回答に矛盾があることが分かり、時間を置いて発覚することは多かった。軽度なものは2回、重度なものは1回発覚すると否応(いやおう)なく解雇された。米国では、ほとんどの企業が倫理観を最重視しており、違反者への処分は非常に厳しい。
エルピーダメモリでは、TIよりもさらに分かりやすく、シンプルな監査項目を導入し、倫理規定に違反した者を数名解雇した。CEO候補だった人物に過剰接待の疑惑が浮上し、社長レースから外して部下を持たない職務にしたこともある。
そして、最近のように不正が立て続けに起きている状況を踏まえれば、従業員の手本となるべき役員以上の者については外部機関による厳正な監査を行うべきだ。日本企業の外部監査では、財務や労務管理などがメインになることが多いが、企業倫理を対象とした監査こそ注力すべきだ。
また、会社の信用を揺るがすような問題が起きた場合には、社長自身が対策本部長となり最前線に立つべきだ。社長と副社長では知名度が全く違う。社長が出ることで社員、顧客、世間に対して問題解決への強い意思表示ができる。
海外企業の場合、社長と副社長の給与差は日本企業よりもはるかに大きい。それは、問題が起きれば企業のトップである社長が最終的な責任を負うという、他の役職にはない重責を示している。
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