IT業界では、米グーグルの地図情報サービス、インテルのCPU、マイクロソフトのOSなど、海外企業が多くのデファクトスタンダード(事実上の標準。以下、デファクト)を築いている。そして、自動運転やロボットなど新たな技術においても、デファクトを獲得すべく、欧米、中国の企業がしのぎを削っている。
デファクトを獲得すれば、その技術を利用する世界中の企業からロイヤルティを得るとともに、情報を吸い上げてビッグデータ化し、新たな技術を生み出すことができる。デファクトを獲得するには、革新的な技術と拡散力が必要となるが、欧米企業と比較して日本企業はその点が弱い。
まず技術に関して、日本の大企業においては、総合電機メーカーのように各社がさまざまな事業を抱え、同じカテゴリーの製品を開発して競い合っているため、開発に費やすリソースも分散されている。これでは、質の高い製品という枠を超えた革新的な製品、技術を生み出し、標準化を進めることは難しい。
また、拡散に関して、欧米企業では、名の知れない中小企業でも技術が優れていれば大企業や投資ファンドなどからのバックアップを受けられ、大企業がその技術を利用することで市場に拡散してデファクトとなる。しかし、日本では中小企業が開発した優れた技術や製品を大企業がなかなか評価しない傾向にあり、拡散されにくい。
冒頭のグーグルの地図情報サービスもインテルのCPUも、開発当時は小さな会社の一事業だったが、他の大企業などからのバックアップを受けて一気に国際標準となった代表的な事例だ。
現在開発が進んでいる家電のIoT化は、日本が圧倒的に強い分野だ。しかし、このままでは他国の企業に先にデファクトを獲(と)られかねない。
そこで、例えば総合電機メーカーは自前主義にこだわらず、互いに同種の事業部門を抽出して別会社を作るなど、リソースを集中させて開発を進めるべきだ。また、中小企業が持つ技術に対し、企業名よりも「技術」の将来性を判断基準にした投資が必要だ。
こうした考え方と同様の構図でソニー、東芝、日立の中小型液晶ディスプレイ事業を統合したジャパンディスプレイ(JDI)は現在業績が低迷しているが、その発想自体は適切だった。有機EL事業への参入が遅かったことや、工場を分散したまま経営し、集約しなかったことなど、その戦術面に問題があった。
また、自国産業がデファクトを獲得できるようなルールを国内市場、または競合国も巻き込んで作ることも重要だ。例えば昨年9月、中国政府は2019年から自動車メーカーに10%のNEV(新エネルギー車)の生産を義務付けると発表した。内燃機関の技術で他国に勝てない中国が、電気自動車で覇権を握るための勝負に出たのだ。
こうしたルールメイキングにおいては、民だけでなく官の支援が必要となる。
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