カタールのドーハでAFCアジアカップが開催されている。中東の政治経済を知るためにも、この大会は大変興味深い。「アジア」でのアラブ世界の存在感と、小国カタールのグローバル戦略の2点から見てみよう。
アラブ世界はアジアなのか?
日本代表がグループBで対戦したのは、ヨルダン、シリア、サウジアラビアと全てアラブ諸国である。まるでアラブ選手権に日本が参加しているかのような印象だった。
数えてみると、本大会出場16カ国のうち8カ国がアラブ諸国である(上記3カ国に加え、カタール、イラク、バーレーン、クウェート、アラブ首長国連邦)。予選にはオマーン、イエメン、レバノンも参加していた。予選参加の24カ国のうち11カ国がアラブ諸国であったことになる。
「国の数が多い」ことはアラブ世界が国際政治上の重要性や発言力を持つ一つの要因である。もちろん、単一あるいは少数の国民国家にまとまり、人的・物的資源を結集できていないことは、弱みにもなっているのだが。
そして、そもそもアラブ世界は「アジア」なのか?というのはなかなか根深い問題である。東アジアとアラブ世界が、共通の「アジア」という帰属意識を持っているとは、現状では言い難い。アラブ世界は文化的にはユダヤ教・キリスト教の発信地であるエルサレムを抱え、歴史的にも経済的にも、地中海を通じて西欧との(対立・敵意を含む)関係が強固である。
アラブ世界が「アジア」に属するのか「アフリカ」に属するのか、あるいは実質上それらの地域区分から自立した「中東」や「地中海世界」を形作るのかは、状況・文脈によって異なる。地域概念や帰属意識が複数あり、状況によって可変的であることは、中東の複雑さの一部である。
アラブ連盟加盟国は22ヶ国(パレスチナ含む)あるが、そのうち11カ国が、サッカーの上では、「アジア」であると自らを規定していることになる(パレスチナが独立すれば、12カ国目の「アジア」の国として参加するだろう)。
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エジプトやスーダン、そしてアルジェリア、チュニジア、モロッコ、リビアなど北アフリカ諸国はアフリカ・サッカー連盟(CAF)に所属し、アフリカ選手権に出場する。現在アジアに属しているシリアは、1958年から61年にはエジプトと合邦してアラブ連合共和国を構成していた。サッカー代表チームもエジプトと共に構成し、1959年のアフリカ・ネイションズカップで優勝している。アラブ世界への帰属意識は薄いものの、便宜的にアラブ連盟に加盟するモーリタニア、ソマリア、ジブチ、コモロなども、当然アフリカに属す。