日本のものづくりの力はエンジニアリング
日本のものづくりといえば、工場における現場力や職人技などをイメージするが、戦後の日本の復興と経済発展を支えてきたメーカーの強みは、エンジニアリングにあると言ってもいいだろう。電子機器の製造では中国企業に対する競争力を失ってしまったが、日本メーカーのエンジニアリングの力はいささかも衰えていない。
開発フェーズの成果物は、試作品を通じて検証される。大きなメーカーでも試作品は、部品の制作をいくつかの試作会社に委託して、それらを自社で組み立ててつくることが多い。
エンジニアリングのフェーズでは、品質基準に従った信頼性試験や、ハードウェアの電気的な試験、ソフトウェアの評価試験、さらにコストと機能のバランス(VE)や生産性の評価などが実施され、設計上の問題の解決や必要な仕様変更などを経て、最終設計ドキュメントや最終部品リスト(BOM)などが出力される。エンジニアリングの成果が、生産フェーズでの品質維持や効率性を左右すると言っても過言ではない。
電子機器の製造を請け負う中国のOEM/ODM企業に、試作を含めたエンジニアリングから生産までを一括して委託することも可能だ。しかし、最終的に生産する数量をコミットしなければならないことが多く、試行錯誤が必要な革新的な製品のエンジニアリングには向かない。
メーカーが行ってきたエンジニアリングは、誰かがやらなければならない。試作のソリューションと、エンジニアリングという日本のものづくりの強みを提供することができれば、Makers Boot Campは、世界中のハードウェアスタートアップにとって魅力的なものになるだろう。
最大の難所はダーウィンの海(蛇足)
ハードウェアスタートアップは、ソフトウェアよりもハードだと言われる。それは商品化までのプロセスがハードだというだけでなく、商品を出荷してからもダーウィンの海、すなわち競争の激しい市場で生き残っていくこともハードだということだ。
ゴープロは、アクションカメラというまったく新しい市場を開拓して一斉を風靡したが、すぐに中国のコピーキャット(模倣犯)達が、同様の機能を持ったカメラを数分の一の価格で売り出した。製品が非常にシンプルなことが特徴でもあり、ハードウェアをコピーすることは容易だった。ゴープロは、株式上場という成功で進化を忘れてしまい苦境に陥った。ダーウィンの海では、常にイノベーションを繰り返して変化しなければならない。
ハードウェアスタートアップには魔の川が存在しないと言ったが、実はそこに大きな落とし穴がある。自分たちの製品が提供する価値はユニークなものか、そして、そのユニークな価値をどのように維持してゆくのか、それは投資家に評価してもらうことではない。製品の計画段階、あるいは商品化のプロセスで、持続的な差別化戦略を見出すことができなければダーウィンの海に漕ぎ出すのは無謀なことだ。
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