経済産業省が推進するスマートホームでは、「ユーザーはスマートスピーカーなどを使って、音声でクラウド上の音声アシスタントに家電の操作を指示し」「音声アシスタントは、それを家電メーカーのサービスクラウドに伝え」「サービスクラウドが家庭内の機器を操作する」という流れになっています。それを図にすると、家電メーカーにとって残念な3つのことが見えてきます。
残念ながら他社との差別化はできない
スマートホームの狙いは、高機能化による差別化が困難になってしまった日本の家電メーカーの行き詰まり状況を、家電と連動する革新的なサービスを創出して打開することのようですが、図に示したように、機器を操作するサービスクラウドは、音声アシスタントから、アマゾンやグーグルが提供するAPIによってユーザーの指示を受け取るだけです。
音声アシスタントはユーザーと会話し、音声認識と自然言語処理によってユーザーの指示を理解してAPIに変換します。APIはいろいろなサービスクラウドから利用されるので、個別の機器に特徴的な機能の操作やサービスに対応するのは困難です。家電メーカーは、APIが対応していない独自の機能やサービスによって、他社の機器と差別化することはできないのです。
残念ながら重要なデータは蓄積できない
経済産業省は、「IoT・ビッグデータ・AI等のITの技術革新により、実世界から得られたデータを分析・解析し、その結果を再び実世界にフィードバックする社会が現実になりつつある」とし、スマートホームでは「IoTによってデータを収集して解析する」ことが重要だと説明しています。
確かに、家電がインターネットに繋がること(IoT)によって、家電から何らかのデータをサービスクラウドに送ることができるようになります。しかし、どのようなデータを収集して何を解析するのか、それによって、どのような価値をユーザーにフィードバックするのかは明確になっていません。IoTが語られるときにありがちな、「データがあれば何かできそうだ」というレベルの話です。
一方で、ユーザーとの会話は音声アシスタントに蓄積されます。アマゾンやグーグルは、自然言語処理の結果をさらに分析することによって、ユーザーの嗜好や行動の傾向を把握することが可能になります。
残念ながらプラットフォームは押さえられない
IoTによって「プラットフォームへの情報集約とデータのマルチユース」を可能にすることもスマートホームの狙いのようです。しかし、その構図でのプラットホームは音声アシスタントです。
多くの日本の家電メーカーが、アマゾンやグーグルの音声アシスタントと会話するためのスマートスピーカーを発売しています。そして、APIに対応した家電(機器とサービスクラウド)を供給して、それらのプラットフォームの価値を高めて行くのでしょうか。多くの家電メーカーがプラットフォームビジネスを標榜していますが、スマートホームではそれを実現することはできません。
しかし、クラウドのサービスとの連携は、家電をスマートにするための有望な手段でしょう。家電メーカーは独自の「機器とサービスクラウドとの連携」を開発し、競合との差別化を目指すべきだと思います。