事業が発展し、新しい社屋が出来たりすると、壁にはやはり見応えのある絵が必要となる。購入の具体的な理由としては、それがまずあったようで、新社屋が出来る前にたくさん絵を購入している。ほとんどが近代絵画で、洋画ではわずかにそれ以前のクールベやコローやドラクロワなどあるが、華はやはりそれにつづくマネやモネなどの印象派、さらにゴッホ、ゴーガン、セザンヌからピカソ、マチスなど、現代に繋がる絵である。
美術史的にかなりまんべんなく、網羅的に揃えてあるのは、やはり美術館構想があったからだ。ルノワールの「髪かざり」と「レースの帽子の少女」がこの美術館のシンボル、あるいはアイドルとして位置づけられているのは、このポーラ美術館ならではのことである。とくに「髪かざり」は、若いお嬢さんのお出かけ前の身仕度で、お姉さん(?)に髪をいじられているところ。つまりお化粧にかかわる場面だから、意味の上でポーラの社業にきっちり繋がる。これを見つけて購入したときには、オーナーとして達成感があったことだろう。
ピカソ、マチスの両巨頭は、ピカソの方がずいぶん揃っている。これはちょっと意外だった。自分は若いころだんぜんピカソで、マチスは横目で見ていたが、還暦が近づくころからか、むしろマチスの方が好きになった。マチスの方が女性的好みだと思っていたけど、そういうものでもないらしい。
このときはアンリ・ルソーの企画展をやっていた。日本各所の美術館から、出来る限りのルソーの絵を集めたという。ぼくもルソーは大好きで、展示されたルソー周辺の人たちの絵とともに充分堪能した。
都心から離れた場所ではあるが、ずいぶん人は来ていて、やはり箱根という観光地が逆に人々を呼んでいるらしい。絵を見ることが静かな観光だから、ここではそれが二重に楽しめる。
(写真:川上尚見)