2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2018年3月23日

中間選挙におけるロシア介入の仕方

 マイク・ポンぺオ中央情報局(CIA)長官やダン・コーツ国家情報長官などの米情報機関の幹部は、16年の大統領選挙介入に成功したロシアが中間選挙に干渉する可能性について強い懸念を示しています。同センターが実施した調査によれば、55%が「米国の次の選挙に対するロシア介入にトランプ政権が本気で対策を講じていない」とみています。サフォーク大学と米紙USAトゥディによる共同世論調査においても、「今後もロシアは米国の選挙に介入するか」という質問に対して約8割が「する」と答え、6割がトランプ大統領のロシア介入に対する対策が十分ではないと回答しました。

トランプ支持の帽子をかぶったプーチンのTシャツ

 11月6日に行われる中間選挙の焦点は、米連邦議会上下両院で民主党が多数派を奪還して、トランプ氏に対してまず下院が弾劾の発議を行うことができるかに注目が集まっています。これに加えて、ロシア人が米国人になりすまして、YouTube、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターといったソーシャルメディアを活用して、中間選挙に介入し、逆風が吹く共和党議員を助けるのか、この点も焦点になります。

 ロシアが中間選挙に介入するならば、インターネット上の政治広告を買収して、民主党候補に不利な情報を拡散するかもしれません。米国人を雇用して共和党候補を応援する政治集会を企画するなどの種々の手口を使う可能性も否定できません。トランプ大統領が前回の大統領選挙で勝利を収めた州であり、民主党上院議員が苦戦すると予想される中西部インディアナ州、ミズーリ州、西部モンタナ州などがロシアによる工作の標的になるでしょう。中間選挙で、ロシアが各州の選挙システムに潜入する可能性がすでに指摘されています。

トランプ・モラー両氏の生き方と考え方

 米メディアによれば、トランプ・モラー両氏はニューヨークで生まれ、富裕層の家庭で育ちました。しかし、両氏の生き方と考え方は極めて対照的です。

 父親がデュポンの役員であったモラー氏は志願して海兵隊に入隊し、ベトナム戦争でベトコンに太ももを撃たれ負傷しました。それでも戦い続けた同氏の勇気が評価され、ブロンズスターメダルなどを受賞します。一方、中低所得者向けの不動産で成功を収めた父親を持ち、愛国心に訴えるトランプ氏は、ベトナム戦争での兵役を逃れています。

 モラー氏は、年収40万ドル(約4224万円)の弁護士事務所での仕事を辞めることで、給料が75%減になっても検察官の道を進みました。同氏は共和党のみに登録しています。それに対して、トランプ氏は、実業家、テレビ司会者、政治家と職業を変えて、有名人になることを目指してきました。同氏は、1999年から2012年の間に、民主党に2回、共和党に3回、無所属に1回登録をしています。

 トランプ氏は、演説で「私」を強調し、「私がやった」というメッセージを発信します。しかも同氏は、家族を全面に出します。他方、モラー氏は「組織」を重視し、「組織で動く」という考え方が強いといわれています。また、家族については語りません。

 これらに加えて、今回のトランプ氏による側近の解任ドミノで同氏の思考回路も見えてきました。同氏は、意見の相違や相性を理由にゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長、レックス・ティラーソン国務長官を相次いで解任しました。言うまでもありませんが、リーダーは意思決定をする際、異なった物の見方や考え方が不可欠です。

 ところが、トランプ氏は第1に、「異論」を唱える側近は忠誠心がないとみなす傾向が極めて強いといえます。アドバイスが異論になってしまうのです。率直に言ってしまえば、同氏にはアドバイザーは不要で「同調者」が必要なのです。

 第2に、側近に対して高い忠誠心を求めるのですが、彼らに敬意を示し、必死に守ろうとはしません。トランプ氏には、側近に敬意を払うことが求められています。

 第3に、国務省の高官ポストが空席でも、トランプ氏は自分が優れた「交渉者」兼「戦略家」で、「意思決定者」でもあると考えており、空席が重要な問題であるとは捉えていないフシがあります。政策実現には人材が欠かせません。

 要するに、トランプ大統領はリーダーとしての自身の資質を強く信じており、モラー特別検察官のように「組織で動く」「組織で解決する」「組織で知恵を出す」といった考え方を重視していないということです。ロシア疑惑は、自身の能力に依存するトランプ氏と組織力で疑惑解明に取り組むモラー氏との2人による激しい攻防とみることができます。

  
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