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2011年3月1日

 意味のないことや、必然性がないものが同居することを『シュール』なんて言う。語源は「シュルレアリスム(フランス語。英語読みはシュールレアリズム)」。日本語で書くと「超現実主義」だが、「現実を乗り越える」という意味だ。でも本当のシュールって何? シュルレアリスム展はそんな『シュール』の本質に触れられる画期的な展覧会だ。

シュルレアリスムって何?

 この展覧会、何が「画期的」かというと、展示品のほとんど総てがフランスの現代美術の殿堂、ポンピドゥセンター所蔵であることだ。本場ヨーロッパのシュルレアリスムの展覧会が日本で開催されたのは、古くはシュルレアリスムが生まれて直ぐの1930年代だったが、そこに展示された作品は膨大な思想を持つシュルレアリスムのほんの一部であり、近年まで幾度となく開かれている展示もまた同様なのである。シュルレアリスムの思想そのものこそ難解であり、その作品の選定すらも困難で、発祥の地であるフランス、派生したヨーロッパ、アメリカ、日本でもこれまで数多く研究がなされ続けてきた。そんななかで、本場の最先端の研究によってチョイスされた門外不出のコレクション約170点が、国立新美術館にやってきたのだ。見逃すわけにはいかない。

 そもそもシュルレアリスムとは? 「シュルレアリスムはダダの灰の中から生まれた」と言ったのはトリスタン・ツァラというルーマニアの詩人で、第一次世界大戦中に「ダダ」という芸術運動を始めた。第一次世界大戦は人類がそれまで行っていた戦争とは異なり、大量破壊兵器による殺戮の地獄絵図であった。ツァラはこの戦争という文明の愚行に対して、否定のみを叩きつける運動を「ダダ」として興した。しかし、否定だけの運動はニヒリズムに陥る。この発想を持続的なものにして、人間と社会を変革できないかと考えたのがアンドレ・ブルトンであった。ブルトンは精神科医として戦場にも赴いた医者でもあり、詩人でもある。シュルレアリスムは詩=文学から始まった。

画家兼デザイナーのマグリット

 ブルトンは人類の愚行を超克すべく、偉大な先人の思想を援用した。人間の無意識を解き明かそうとしたS・フロイトの心理学、人間個人の変容を提唱したA・ランボーの詩、人間社会の革命を唱えたK・マルクスの理論がそれだ。即ち、愛と詩と革命こそ、シュルレアリスムの思想なのだ。ブルトンのこの思想に共鳴する者は、シュルレアリストと呼ばれている。初期のシュルレアリストの中には、シュルレアリスムは詩でしか表現できず絵画では実現不可能だと唱えるものもいた。それに対してブルトンは現実的なものとその慣例的な表現に対する信用の失堕という逆説に基づいて『シュルレアリスムと絵画』という論文を書き続け、シュルレアリスムが絵画で実現する理論の構築に励んだ。詩から出発し絵画を得たシュルレアリスムはその後、写真、映画、オブジェとその裾野を広げていくのだ。


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