2024年7月16日(火)

解体 ロシア外交

2011年2月28日

 第二に、日本と「戦略的パートナーシップ」を構築していきたいという意向が表明されたことだ。2004年に中露が懸案だった領土問題を解決してから、ロシアは東アジアのパートナーを中国と決め、関係を強化してきた経緯があることを考えれば、「戦略的パートナー」関係の構築と「領土問題解決」は切り離せない関係であるとも言える。大いに期待が持てたとも言えるのだ。

 しかし、これらのメッセージに対し、日本側は全く反応をしなかっただけでなく、その3日後に、菅首相が「許し難い暴挙」という発言をしたため、ロシアはその発言こそが、メドヴェージェフ大統領のメッセージへの回答であると受け取ったのである。そして、ロシアの姿勢は再び硬化した。同日、プリホチコ大統領補佐官は、クリル諸島(北方領土)に対するロシアの主権は将来も見直すことはないと発言し、ロシア外務省からも強い抗議がなされ、反対デモが始まったのは既述のとおりである。9日には、メドヴェージェフ大統領本人が、国営テレビで放映されている会合で「(北方領土は)わが国の主権が全面的に及ぶロシア連邦の領土だ」として、北方領土でのロシアの存在感を高めていく努力をしていくことが戦略だと強く述べ、軍拡についても国防相に指示するなど、極めて強い姿勢で北方領土の領有権を主張したのだった。

状況を打開できるか?

 筆者は、既述のようなロシアの最近の動きの中で、ロシアが日本への返還可能性を示してきた歯舞・色丹両島にまでロシアの進出が及んできたことを最も懸念している。昨年から始まったロシア首脳陣の北方領土訪問も、国後、択捉に限られており、日本への配慮は守られているかに思えた。しかし、中国や韓国の企業や投資は、色丹島にまで進出してくる模様であり、また、3月にはアンナ・チャップマン率いる「若き親衛隊」も国後、択捉両島のみならず、色丹島にも訪問する予定だと報じられた。日本への返還可能性が最も高かった色丹、歯舞両島にまでロシアの主権が誇示され、特に外国資本や企業まで入ってきて、それが「ロシアの法」に基づいて活動をすれば、領土交渉はさらに困難になるだろう。

 さらに、上述のように、ロシアの政治指導部は態度を硬化させており、日本が「過激な立場」を取り続ける限りは、北方領土交渉は無意味だという見解を主張する政治家が増えている。ラブロフ外相も、日本が第二次世界大戦の結果を認めない限りは領土交渉をすることは無意味だと述べている。もちろん、この背景には、菅首相の発言がある。議員などの中には、日本と交渉をすることは拒否しないが、政治、経済、安全保障など様々な分野の交渉を行うべきだという意見もあれば、日本との交渉は今後一切するべきではないという声もある。そして、共通して聞かれるのが「日本は本気で領土問題の解決をしようとしていない」「交渉に必死さが見られない」「日本の閣僚や首脳陣はそれぞれ勝手なことを言っていて、一枚岩でなく、誰も交渉する価値がない」「いずれにせよ、菅内閣は 3月で終わるだろうから、今は何をやっても無駄だ。やるとしたら次政権だ」というような意見である。

 なお、最近、前原外相や枝野官房長官の発言から見るに、民主党首脳陣は北方領土についてロシアの「不法占拠」という言葉を避けるようになったようである。以前、前原氏が「不法占拠」は事実であり、言い続けなければならないと主張していたのとはずいぶん温度差がある。ちなみに、外務省のホームページでは「不法占拠」という言葉が使われている。このように言葉を軟化させた理由がロシアへの配慮であることは間違いないが、このような内側の形式的な変更に気を配るより、まずはロシアの細かいサインを見落とさない外交姿勢のほうが重要ではないかと思われる。

 現在、日本政府ができることはあまりないが、北方領土に進出を狙う中国や韓国を厳しくけん制しつつ、なるべく多くの諸外国の支援を得る努力をし、国際環境をよりよくすることがまず大切である。さらにロシアの動向をしっかり追い、どんな小さなチャンスも見逃さないような外交を繰り広げ、一歩一歩、領土の返還に向けて歩み寄りができるよう努力していくべきだろう。

*記事の一部を修正しています。 [2011/04/20 18:00]
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