2024年11月22日(金)

解体 ロシア外交

2011年2月28日

 北方領土には択捉、国後の両島に約3千人のロシア兵が駐留しているとされ、戦車や装甲車などが配備されているが、現在、様々な形での軍備増強が目指されているという。2月4日には、択捉、国後の両島に駐留する第18機関銃・砲兵師団の軍備を近代化する方針が表明された。それは、2020年までの新たな国家軍備計画の枠内での軍備刷新で、近く正式に決定されることになっている。

 また、2月18日には、射程約400キロの最新型対空ミサイルシステム「S400」が極東のカムチャツカ半島に配備されることが発表された。さらに、ロシアがフランスからミストラル級強襲揚陸艦を購入することは大いに話題となっているが、その4隻のうち2隻を北方領土周辺に配備するという噂もある。そして20日には北方領土を含む千島列島の機関銃・砲兵師団に「最新鋭の装備」が配備されることも発表された。ロシアはこれらの動きを北方領土の軍拡ではないと主張しており、実際、ロシアの軍部首脳陣の最近の北方領土視察は、以前から予定されていたものであり、通常戦力部隊の近代化の計画や作戦戦略演習ボストーク2010の一部だとする構図も確かに成り立つため、あながち、日本の牽制のために北方領土付近の軍拡を進めているとは言えないが、それでも日本にとっては非常に厳しい動きであることは間違いない。

背景は?

 それでは、何故ここにきて、急にロシアは北方領土問題に対し強硬な路線を取り始めたのだろうか。その背景には様々な要因がある。詳細は拙稿「北方領土問題~大統領訪問の背景とロシアの見方」(http://webronza.asahi.com/synodos/2010111500004.html)をご参照いただきたいが、主に4つの理由が挙げられる。すなわち、第一に次期大統領選挙を見据えての内政におけるアピール、第二に戦後の領土画定を含む歴史の固定化を(中国と共に)図ること、第三に米国と関係を「リセット」したことにより欧米との関係が改善したため、外交の余力が出たこと、第四に民主党外交の弱みに付け込めると考えたこと、である。

日本のミス

 日本のこれまでの北方領土交渉の経緯については、これまで多くの研究や回想録などが出ているので詳述しないが、ソ連ないしロシアが歯舞・色丹の「二島返還」ならば応じるという姿勢を見せたことが数回あった。日本は四島返還を要求してきたので、それらの交渉が妥結することはなかったが、昨年のメドヴェージェフの国後島訪問以後は、ロシアは「二島返還」の可能性も完全に封印したため、交渉はより厳しくなったかに思われた。

 しかし、実はチャンスはあったようである。

 2月4日にメドヴェージェフ大統領は定例の安全保障会議で、セルジュコフ国防相の北方領土訪問を受け、当地の軍備の近代化を進める方針を表明していた。だが、同時に大統領は、日本とは平和条約締結問題を含め、あらゆる局面での関係発展を進める必要があるとし、日露関係を戦略的パートナーシップの新段階に引き上げたいと強調していたのである。この発言は日本に対して重要なメッセージを含んでいた。

 第一に、大統領が北方領土訪問直後に「ロシアは1956年の日ソ共同宣言を履行しない考えを固めた」という決意を表明していたにもかかわらず、「平和条約締結問題」の協議を継続する用意を示したことだ。そうだとすれば、日ソ共同宣言で謳われているように、平和条約を締結して色丹、歯舞両島を日本に返還することで領土問題の解決とするというラインをメドヴェージェフ大統領も踏襲することにしたと読み取れる。


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