韓国の国民感情を揺さぶった「パフォーマンス」
韓国との関係でいえば二つの点を指摘できる。
一つは、韓国が北朝鮮の現体制を認め、平和と引き換えに朝鮮半島分断の固定化が進むことに合意したという側面だ。これまでの首脳会談でも同じことではあったが、南北和解とは実質的な統一の先送りである。文在寅政権は特に、南北の和解と共存を訴えている。「共存」というのは統一を志向する言葉ではない。
もう一つは、冗談を口にしたり、真摯な表情で文在寅大統領の言葉に耳を傾けたりする金正恩委員長の姿が生中継されたことの効果である。金正日国防委員長も2000年の南北首脳会談でソフトなイメージを演出したが、金正恩委員長はこの点で父の上を行ったように思われる。南北首脳が手を取り合って軍事境界線を歩いて越える場面は、折りに触れて「分断」を意識させられてきた韓国の国民感情を揺さぶった。
演出効果は韓国だけを狙ったものではないはずだ。普段は北朝鮮情勢に関心を持っていない世界の大多数の国ではそもそも、良くも悪くも北朝鮮に対して固着したイメージが強くあるわけではない。だから、今回の首脳会談では単純に「感動的な場面」が多かったと見られるだろう。当事者である韓国人が肯定的な印象を抱いたとなれば、なおさらである。拉致事件や核・ミサイル問題で北朝鮮に対するネガティブなイメージが根強い日本では皮相的な見方が強いとしても、それが必ずしも世界中で共感されているとは限らない。北朝鮮を論じる際には、そうした点への目配りも大切になろう。
核と経済の「並進路線」は終結が宣言された
朝鮮労働党は4月20日に中央委員会全員会議(総会)を開いた。会議では「経済建設と核武力建設の並進路線の偉大な勝利を宣布することについて」という決定書が採択された。決定書の内容は、(1)党の並進路線を貫徹するための闘争の過程に臨界前核実験と地下核実験、核武器の小型化、軽量化、超大型核武器と運搬手段開発のための事業を順次行って核武器の兵器化を頼もしく実現したことを厳粛に宣明する、(2)核実験とICBM試射を中止する。核実験中止の透明性を保証するため核実験場を廃棄する、(3)核実験の全面中止のための国際的な志向と努力に合流する、(4)自国に対する核の威嚇や挑発がない限り核兵器を絶対に使用しないし、いかなる場合にも核兵器と核技術を移転しない、(5)国の人的、物的資源を総動員して強力な社会主義経済を建設して人民生活を画期的に高めるための闘いに全力を集中する、(6)社会主義経済建設のための有利な国際的環境を整え、朝鮮半島と世界の平和と安定を守るために周辺諸国と国際社会との緊密な連携と対話を積極化していく——というものだ。
一般的な関心事から言えば、注目されるのは核実験・ICBM試射の中止と核実験場の廃棄だ。だが、決定書のタイトルは「並進路線の偉大な勝利を宣布する」となっている。この決定は、並進路線の終了を宣言するとともに、(5)で挙げた経済建設に集中する新路線を打ち出したものである。
『労働新聞』は4月22日付で、会議に参加した党と国家の幹部が「経済建設に総力を集中すること」に関する新たな戦略的路線を貫徹する決意を表明したと報じた。そこでは経済建設への集中が「党の新たな路線」として定義されており、「われわれの革命はついに最後の勝利を確信を持って見通せる直線走路に入り、人民生活を画期的に高める経済建設の大進軍時代を迎えている」という党幹部の声が紹介されているのである。