無線機でつながる二人の刑事
三枝と大山は、無線機でつながる。
三枝 大山刑事、聞こえますか?
大山 聞こえます。
三枝 北野みどりは無事でしたか?
大山 犯人は? そこは2018年なんですよね。犯人は捕まったんですか?
三枝 間に合わなかったんですか?
大山 犯人は誰ですか? 教えてくださいよ。
そっちは、捜査資料だけで事件がわかった気になっているんでしょ。
こっちは違うんですよ。みどりはつい昨日まで生きていたんですよ。
一生懸命生きていたんですよ。夢ができたって。笑顔で生きていたんですよ。
犯人は俺がぶっ殺しますよ。
三枝 あなたも殺人犯になってしまいますよ。
(バス会社の事務員・2018年時点で殺された)八代英子を訪ねてください。
真犯人の証拠を握っている。
三枝の声は大山に届かなかった。大山は、犯人を見失ったバス停で見送ったバスの運転手・田中修一(モロ師岡)を追及するために、自宅を訪れると、犯人と酷似した息子の仁志(尾上寛之)を発見する。逃げようとする仁志を大山はビルの屋上まで追い詰める。取り押さえて顔面を殴打して、自白を迫ると、背後から父親の修一が息子を救おうと角材でなぐりかかる。大山は拳銃を構えて修一を狙うと、彼はビルから落ち、壁面に両手をかける。それを救おうとする大山の手を振り払うようにして、仁志は転落する。下半身の自由を奪われて寝たきり状態になる。
解決事件捜査班は、バス事務員の八代が、仁志が犯人である証拠を隠しているとにらんで、八代の取引先銀行の貸金庫から、殺された北野みどりの髪飾りを発見する。仁志がみどりを襲ったとき、髪飾りが仁志の頬に深い傷を負わせ、DNA鑑定の結果はそれを裏付けた。
三枝 大山刑事、聞こえますか? 犯人を逮捕しました。
その時代の鑑識技術では無理です。
いくら技術が発達しても証拠がなければ逮捕できません。
今回の件は、あなたのおかげです。
大山 教えてくれて、ありがとうございました。
大山は、みどりが働いていたラーメン店主から、彼女が大山に託した封筒を受け取る。髪飾りのお礼のお返しだった。2枚の映画の券が入っていた。店主はこういう。「大山さんがそばにいるおかげで夢をみることができるようになった。大山さんが最近、元気がないので面白い映画を見せて、今度は自分が励ます番といっていました」と。
大山は映画館のなかで、みどりがすわるはずだった左側の席に手をおいて、笑いと涙で顔面をおおいながらスクリーンに向かうのだった。
このシリーズは、人間の業(ごう)と情念が一話一話のなかに凝縮されている。
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