両親に捨てられるように施設に預けられた、辻沢ハリカを広瀬すずが演じる「anone(あのね)」(日本テレビ・水曜夜10時)は、脚本・坂元裕二の静かなセリフが物語を深めて、クライマックスを迎えようとしている。
坂元は「Woman」(日テレ・2013年)は、満島ひかりをシングルマザーという役に起用して、彼女の演技の幅を広げた。「カルテット」(TBS・2017年)は、満島と松たか子、高橋一生、松田龍平が題名のクラシックに取り組む、という設定で魅せた。
「anone」もまた、広瀬すずの代表作となるだろう。今季のドラマの秀作である。広瀬は「三度目の殺人」(是枝裕和監督・2017年)で、秘密を抱えた家族のなかで壮絶な青春を過ごしている少女を演じて、日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞した。
ドラマの脚本家として数々のヒット作を手掛ける坂元と、日本を代表する監督である是枝組に起用されて、いま幸せな女優のひとりといえるだろう。
偽札づくりと疑似家族
今回のドラマは、中世古理市(瑛太)が企てる偽札づくりに吸い寄せられるように集まった、疑似家族の物語である。
辻沢ハリカ(広瀬)は、ネットカフェ暮らしをしながらバイトを続けていた。夢に現れる少女時代は、豊かな祖母のもとで暮らしている。しかし、それは両親が預けた施設で、祖母というのは実は厳しい施設長である。
ハリカは施設の言いつけを守らなかったことから、折檻を受けた小屋で紙野彦星(清水尋也)と出会う。両親が交通事故で亡くなって、施設から出て、その日暮らしになった。SNSの空間のなかで、ハリカは彦星に再開する。彦星は難病で入院している。ハリカとチャットするのが、彼の心の支えであり、ハリカにとっても彦星は特別な存在になっていく。
ハリカは彦星に「あのね……」とチャットで話しかける。
偽札づくりは、印刷所を営む林田京介(木場勝己)と従業員の中世古(瑛太)が手を染めたものだった。林田の妻の亜乃音(あのね・田中裕子)に、多量の偽札が残された。彼女はいま、弁護士の花房万平(火野正平)の事務所で働いている。
亜乃音が偽札を捨てようとして悪戦苦闘する、さまざまな場面が重なって、偽札づくりを知った男女が、亜乃音が住む印刷所に集まってくる。