Wedge REPORT

2009年2月20日

 最新の脳科学理論によれば、心のなかでクオリアを感じるためには、脳のなかに「鏡」のような働きが必要らしいのです。自己を認識することが他人を理解することにつながるという人間の脳のすばらしいパラドックス。クオリアという鏡を通してみれば、日本人や日本文化には、さまざまな可能性が見えてきます。

 たとえば、食文化のひとつである「おまかせ」。これはすばらしい文化です。飲み屋さんに入って、お客さんが「まかせるよ」と主人にひとこと言えば、主人はその客の年齢や好みなどを考慮しつつ、料理を出していくわけです。こうしたサービスは、日本独特のものであると思います。

 これが欧米であれば、イニシアティブは客にある。ホテルもレストランも、客が何かを要求しないと何もサービスは受けられません。ところが日本の場合には、客が望んでいるであろうことを想像し、先回りしてサービスを提供する文化をもっているのです。これは、日本流「おもてなし」の美学であると言ってもよいでしょう。

 また店の側に立ってみても、「おまかせ」文化は非常に合理的なものです。メニュー方式であれば、メニューに掲載されている料理はすべて出せるように準備しておかなくてはなりません。そうすれば、食材を無駄にすることになるかもしれない。しかしこれが「おまかせ」料理であれば、無駄がなくなります。

 また「おまかせ」にすることで、その日の料理の仕込みに集中することができます。あれもこれも準備するのではなく、今日の料理にだけ神経を行き届かせることができる。それが日本料理の骨頂にもなっているのです。この「おまかせ文化」ということが、いかにすばらしいか、私たちはよくわかっていない。

 脳科学の立場から言っても、あらかじめ何が出てくるかわかっていて、それを順に追っていく経験よりも、次に何が出るかわからないまま待っているほうが、出てきたときのサプライズは大きい。喜びを感じたときに出る「ドーパミン」という脳内物質だって多く出るんです。 このように我々にとってはごくごく当たり前のことのなかに、日本のクオリア、我々が生きるということを支えてくれるさまざまな知恵があるんです。だから我々はもっと自分のことを鏡に映して見てみなければいけないのではないでしょうか。

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