オトナの教養 週末の一冊

2018年5月25日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

トランプ大統領も反ワクチン派

 そんな恐ろしい麻疹と闘い、ワクチンを開発してきた紆余曲折の道のりが描かれる一方で、麻疹・ムンプス(おたふくかぜ)・風疹の混合ワクチン(MMRワクチン)による髄膜炎の発生や、自閉症との関連を疑う動きについてもふれている。

 1998年、英国の医学雑誌『ランセット』に掲載された自閉症のMMRワクチン原因説について、その後に論文データの捏造や研究費の不正受給が暴かれ、科学的に否定されるまでの経緯が記されている。

 否定されたとはいえ、この論文の影響で、英国ではMMRワクチンの接種率は72%に低下し、麻疹とムンプスの発生が起きたという。

 皮肉なことに、英国でMMRワクチンと自閉症の関連が科学的に否定された頃、火種は米国に飛ぶ。2000年、米議会に自閉症の問題を審議する委員会ができた。孫がワクチン接種後に自閉症になったと語る議員が委員長だった。

 科学的には関連性が否定されているものの、「ワクチン反対運動に同調する人たちは政界にも多い」と、著者はいう。その筆頭が、トランプ大統領である。

 米国の動きに危機感を抱いた科学者の声を代弁して、『ネイチャー』2017年1月19日号には、「ワクチンのために立ち上がれ」という論説が掲載されたそうだ。

 本書にあるとおり、自閉症との関連をめぐっては、接種の時期と自閉症の発症時期がたまたま同時期だったに過ぎないなど、数多くの反論が出されている。にもかかわらず、最初の論文がいまだにひとり歩きしているのだから厄介だ。

 この問題は、相前後する二つの事象を安易に原因-結果に結びつける悪い例として、認知心理学でしばしば引き合いに出されている。

 本書を読んで基本的な知識を身につけておくことは、個人としても、社会としても、誤った判断をしないための防衛策になるだろう。

  
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