2024年12月14日(土)

日本を味わう!駅弁風土記

2011年4月15日

浜名湖を擁する静岡県が全国一のウナギの産地であったのは
昭和50年代まで。今では愛知県や鹿児島県の1/4でしかない。
しかし浜名湖を眺めて浜松駅に来たらウナギの駅弁を探してしまう。
戦前から販売されている伝統の味は21世紀に赤ワインと融合した。

 東海道新幹線は浜松駅と豊橋駅の間で、浜名湖が遠州灘につながる首根っこを東西に横断する。20年ほど前までは、そのあたりを新幹線「ひかり号」で走っていると、車内販売でウナギ弁当を売りに来たものである。尖った顔の二階建新幹線と、丸顔の0系新幹線電車が、幅を利かせていた頃の話である。

 少し考えてみれば、浜松駅や浜名湖を最高時速210kmで通過する、東京駅あるいは新横浜駅から名古屋駅までノンストップの列車で、沿線の弁当が積み込めるはずがないと思うが、車窓に水面が広がり、養鰻場や競艇場が流れる頃にウナギ弁当の販売員が来ると、なんとなく買ってしまう、食べてしまう弁当であった。

味の良さを守り続けて、ブランドは今も健在

 今でも浜名湖の名物はウナギである。浜松駅の名物駅弁といえばウナギ弁当である。しかし実は、浜名湖を擁する静岡県はウナギ養殖日本一の座から滑り落ちて久しい。第二次大戦後に産地として名を上げ、最盛期には国内の養殖ウナギの7割が静岡県産という時期もあったが、1983(昭和58)年に都道府県別ウナギ生産量の首位が愛知県に交代して以来、近年は愛知県と鹿児島県の一騎打ちである。静岡県は3~5位あたりに付けているから、まだ上位に付けていることには間違いないが、年間の生産量からすると、愛知や鹿児島の4分の1程度に留まる。

 明治時代の末期までに始まった浜名湖でのウナギ養殖を受けて、少なくとも大正時代には登場していた浜松駅のウナギ駅弁も、現在の名声を得た時期は意外に新しい。当時の紀行文などによると、明治時代から第二次大戦前までは、浜松駅と同じ東海道本線でも愛知県の豊橋駅であるとか、茨城県の常磐線土浦駅のほうが、ウナギ駅弁の知名度が高かったように見える。

 こういうわけで、浜名湖でのウナギ養殖の最盛期であり、そしてウナギの駅弁が全国各地で好まれていた、昭和30年代から50年代までが、浜名湖のウナギや浜松駅のウナギ弁当が日本一の名物であったことがうかがえる。その頃はちょうど、日本の高度経済成長期や観光旅行ブームと一致する。日本一のタイトルはどこかへ行ってしまっても、当時に得た知名度を生かし、味の良さを守り続け、ウナギの浜名湖やウナギ弁当の浜松駅というブランドネームは、健在であると思う。

個性豊かな4種類のうなぎ弁当

自笑亭「うなぎ弁当(赤ワイン仕込)」 1,300円

 その浜松駅のウナギ駅弁は、現在は4種類が販売されている。主力は2000(平成13)年に登場した「うなぎ弁当(赤ワイン仕込)」(1,300円)。駅弁の名前のとおり、赤ワインで仕込んだというウナギの蒲焼きは、見るからにふっくら柔らかそうで、実際に口に含んでもフワフワしている。それでいて、赤黒く染まる表面には、甘辛なタレの味が過不足なく浸みている。ウナギを支える白御飯も、冷めてもうまい駅弁の味。これに追加のタレと山椒とワサビ漬けしか添えていない点に、駅弁屋のこの鰻重への自信がうかがえる。


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