しかし客側にも言い分はある。筆者があらかじめ調べたところ、空港からホテルまでタクシーの料金はおよそ30ドルに対し、リフトは16ドル。しかもリフトの場合(ウーバーも、だが)クレジットカードやペイパルなどで料金が自動引落になるのに対し、タクシーは現金もしくはクレジットカード払いとなる。過去に現金がなくクレジットカードで支払ったところ、タクシー料金はチップが20%以上の設定しかなかった。一方リフトでは1、2、5あるいは任意の数字、という設定だ。最大の5ドルのチップを支払っても料金は21ドル。タクシーだとクレジットで最低限のチップを入れると36ドル。この差は大きい。
イエローキャブのドライバーの誇り
今回亡くなった59歳のタクシードライバーはイエメンからの移民で、先月は2週間全く収入がなく、住んでいたアパートの家賃が支払えない状況に陥っていた、という。友人らがライドシェアのドライバーへの転職を勧めたが、本人はニューヨークイエローキャブのドライバーであることに誇りを感じており、助言には従わなかったのだという。
タクシー乗務員組合はこの窮状に対し、政府になんらかの規制を行うよう以前から働きかけてきた。2月に自殺したドライバーは抗議の意味を込め、ニューヨーク市庁舎の前で拳銃自殺を図った。そもそもタクシー会社は過当競争を避けるためタクシー乗務員の数に制限をかけてきた。そのため一時はタクシー乗務員になる権利に100万ドルの高値がついたこともある。しかし現在では10万ドル台にまで落ち込んでいるのだそうだ。
一方のライドシェアはドライバーになる権利を買うどころか、ウーバー、リフト共にドライバーに登録することでインセンティブを与えるなどの厚遇ぶりだ。とてもタクシーが太刀打ちできる状況ではなくなっている。たまたまニューヨークでの自殺が相次いだためニュースになったが、これから全米で同様にタクシードライバーの自殺が増えるのでは、と危惧する声もある。
ただし多少政府が優遇したとしても、顧客のタクシー離れに歯止めをかけることはできない。それどころかドライバーという職業が存続する可能性も薄い。ウーバーでは2022年にも自動運転による配車サービス開始を予定しているし、グーグルは一部の都市で実験的にドライバーなしの配車サービスを導入している。タクシーだけではなくライドシェアドライバーもこの先は職を失うことになるのは避けられない。
ウーバーは現在自動運転走行で死亡事故が起きた影響で無人運転の公道走行実験を一時的に停止しているが、自動運転の導入を諦めることはしないだろう。残念ながらドライバーという職業が先細りになるのは時代の流れであり、政府が考えるべきは高い権利金を支払ったタクシードライバーの救済措置なのかもしれない。
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