足し算で評価する時代がくれば社会は変わる
初瀬:これからIOTが障害を持った方や、なんらかの生きづらさを感じている方たちの解決策になっていくと思うのですが、IOTが作る未来像はどんな形なのでしょうか。
石川:僕はAIとディープラーニングに注目しているのですが、人工知能は話題が先行していて実態がまだ伴っていません。ただディープラーニングは有効な先端技術なんです。
膨大なデータベースの中から自分で学習して判断するようなものをディープラーニングというのですが、たとえば医療の診断のような専門分野には強いです。人間がやると遅かったり、人によって判断にばらつきが出てしまうようなものには適しています。
また、車の運転の場合、人は年齢があがれば脳が誤動作を起こし、普段はやらないような錯覚や判断ミスや勘違いなどを起こすことが指数関数的に増えていくことがわかっています。それをAI技術によって自動運転や運転支援に有効に活かすことができるのです。アメリカの視覚障害者の団体は車の運転がしたいと前々から言っていました。2000年くらいの頃は、何を言ってんだろうと思っていたのですが、現在は視覚障害者も自動運転の実証実験に参加しています。
初瀬:神戸に研究、治療、リハビリ、社会復帰までを行う眼科専門のアイセンターができたのですが、理化学研究所でIPS細胞による網膜再生医療に取り組む髙橋政代先生も、視覚障害者による車の運転を実現したいとお話されています。
また、パラリンピアンズ協会の河合純一さんはトヨタのCMに出て、「自動運転は夢があっていいですね」と言っているんです。全盲の人がトヨタのCMに出るのかと驚いたのですが、トヨタはその分野にとても力を入れていますから、2020年には何らかの形を見せてくれるのではないかと期待しています。
初瀬:テクノロジーは僕らが夢だったものを実現してくれようとしています。その一方で障害者がやれる仕事がどんどん減っていくんじゃないかという心配もあります。
今後、視覚障害者の仕事はIOTによって少なくなってしまいのではないかとか、ほとんどの仕事がAIにとって代わられるんじゃないかと考えてしまうんですが。
石川:コンピュータと人間の関係はそんなに一元的なものではないと思っています。昨年将棋の名人が将棋ソフトに完敗しました。それでもこの1年は空前の将棋ブームになっています。プロ棋士、藤井聡太君効果もあるのだけれど、棋士もコンピュータを使って序盤の研究をして対極に臨んでいます。囲碁もアルファ碁がでて序盤の布石がまったく変わったと言われています。
だからといってプロ棋士の価値が下がったわけじゃありません。人と人が鎬を削ることの価値は何も変わっていないのです。
より良い結果を出すために人の方がよいのかコンピュータの方がよいのか、結果だけを求めるならば経営者の判断で置き換えられることもあるでしょう。
以前は単純な仕事がなくなると言われてきましたが、むしろ医療のような専門分野の方が誤診が少なくなると考えられています。専門的な仕事こそ危ないかもしれませんよ。
初瀬:たとえば画像診断なんかではコンピュータの方が優れているはずなんです。これからは医師本来の仕事が求められていくのかもしれませんね。人と人と、心も含めて救ってあげるような。
いま僕たちはテクノロジーの発達によって様々な変化を体感している時代です。今後ますます障害者に苦手なことをテクノロジーが補ってくれるようになれば職業の幅は広がってくると考えてよいですね、その場合、僕たち自身がどのように個の確立をするか、自分がどうあるべきか、どう生きるべきかという問題になっていきます。
石川:誰もが自分の特性を伸ばしていける時代になりつつありますので、共通特性としての視覚障害がその人の将来に影響を及ぼすのではなく、一人ひとりが持っている独自性が重要になってくるんじゃないかと思います。
そもそもこれができない人たちはこの仕事ができないというのではなく、その人の特性として他の人にはない何か、コンピュータにはない何か、を磨いていけるか、という時代になってきます。
引き算で人を評価するのではなく、足し算で評価する時代がくれば社会は変わりますよ。未来はね、明るく考えることによって明るくなるんです。
初瀬:今後さらにテクノロジーの進歩でAIが進みIOT化進んでいけば、障害者にとってもっと競争できる機会が増えて面白い未来が来るんじゃないかと思っています。
平等とか、協調、協力という考え方は大事にしながらも、競争できる機会が増えていけばいいと思っています。
http://ir.u-shizuoka-ken.ac.jp/ishikawa/
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