今回は、外国人労働者の実態に精通しているAPFS労組(東京都新宿区)の委員長・山口智之氏に取材を試みた。外国人労働者は貴重な戦力として雇われることもあるが、日本人の社員よりは安易に使い捨てられることが多い。それでも最近は好景気や人手不足の影響もあり、外国人労働者が増えつつある。
厚生労働省は2018年1月に、外国人雇用についての届出状況を公表した。2017年10月末時点での外国人労働者は前年同期比18%増加し、約128万人となり、5年連続で過去最高を更新した。国籍別では、中国が最も多く、37万2263人、次いでベトナムの24万0259人、フィリピンの14万6798人と続く。
この労働者の中には、母国に住む家族を日本に呼び寄せるケースもある。
今回は、この労働者たちの子どもの教育をクローズアップしたい。山口智之氏に「多くの組合員が、わが子の教育に悩んでいる」と語る。近年、相談内容として増えているのが、わが子の教育問題なのだという。
日本企業は、外国人労働者を「使い捨て」にする傾向が依然としてあるが、その向こうにある「家族の問題」にまで視野を広げて考える時期になっている。
「彼らは祖国でエリートであっただけに、
子どもの学歴にかける思いは強烈」
APFS労組の母体は、外国人支援団体の特定非営利活動法人「ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY(略称:APFS)」。1987年に設立された団体で、外国人からの相談や人権擁護の提言、それに関する啓蒙活動を続ける。労働相談をしていたスタッフである山口氏らが2007年に独立し、APFS労組を結成した。
組合員は現在、約60人。約9割は外国人で、平均年齢は30代前半。国籍はミャンマーが最も多く、7割ほど。それに、パキスタンやインド、エチオピアなどが続く。同労組は、個人でも加盟することができる。2007年の結成以来、日本労働組合総連合会(連合)、全国労働組合総連合(全労連)、全国労働組合連絡協議会(全労協)といったいわゆる3大労組には参加していない。外国人労働者の支援に特化し、労組としては独自路線を歩んでいる。
ここ数年で組合員になった外国人労働者の場合、観光目的の「短期滞在」や「技能実習」の資格で入国し、在留中に難民申請するケースが多い。大半は、都内や神奈川や千葉、埼玉の飲食店、焼き肉店、居酒屋などで働く。男性は厨房での料理補助や食器洗い。女性は、ホールで接客をすることが多い。1日10時間ほど働き、休日は週に1日で、給与は額面で月20万円前後。50人以下の中小企業で働く人がほとんどだ。
山口氏はこう語る。
「組合員が最も多いミャンマー人は、学歴に強い思いをもつ人が多い。祖国のミャンマーではヤンゴン大学などの名門大学に在籍していて、1980年代から90年代前半に民主化を求める学生運動を行い、軍事政権からの迫害を避けるため日本に亡命してきたからです」
組合員のリーダー的な存在は、40~50代のミャンマー人だ。多くは、来日後にミャンマー人の女性と結婚している。現在、夫婦共働きで生活を維持する。生まれてきた子どもの国籍はミャンマーのままにしてあるが、日本の公立の学校に通っている。
中には、日本の大学を受験する者もいる。親である彼らは、わが子が学習塾や予備校に通う学費を稼ぐために、必死で働いている。山口氏は「彼らは祖国でエリートであっただけに、子どもの学歴にかける思いは強烈」とみる。
「日本では、彼らのことを高学歴とは認めません。多くはこの20数年間、飲食店の厨房で働いたり、建設現場で肉体労働をしたりして収入を得るしかなかった。私と2人だけになったときに、こう打ち明ける人がいます。『自分はどうしてこんな肉体労働をしているのだろう。子どもには、私が味わっている無念な思いをさせたくない。日本で学歴を身につけさせ、日本か、母国で医師にさせたい』と」
山口氏にはその姿は30~40年前、「受験戦争」と言われたころの日本人の親たちと重なって映るという。しかし、現実は厳しい。日本人の生徒の成績と比べると、彼らの子どもの成績は低い場合がある。山口氏は組合員たちとの懇親会などでミャンマー人の子どもと接するが、ほとんどが日本語の壁に苦しんでいるように見えるようだ。
「日本語を話すことができたとしても、書いたり、読んだりすることが十分にはできない。日本語の初級から学び直すことをせざるを得えない子どももいる」