――保守派が台頭する一方で、映画『ブラックパンサー』の大ヒットやケンドリック・ラマーがラッパーで初のピュリッツァー賞を受賞、また「#BlackLivesMatter」「ひざつき」運動の台頭など、トランプ政権とは真逆のマイノリティの動きも盛んになっているように見えます。
川嶋:政界にも、芸術やエンタテインメント、メディアでもキャスターやコメンテーターとして成功している黒人はたくさんいます。しかしながら、全体から見ればそれはほんの一握り。多くの黒人は、貧困だし、刑務所に収監されている黒人男性も多い。一度、収監されると履歴に残りますから、再就職が難しくなり、再び犯罪に走るというサイクルから出れないことが多い。十代での婚外出産が多く、男性の収監者が多いので、多くの子どもが母子家庭や祖母が支える家庭で生活しています。その多くが貧困です。
――黒人で逮捕される人が多いのは、人種による捜査、レイシャル・プロファイリングがいまだに残っているからでしょうか?
川嶋:黒人の逮捕者のなかには、重犯罪者もいますが、薬物所持などで逮捕されるケースが多いのです。麻薬取締強化策、3ストライク法(3回目では厳罰に処す)が犯罪者を著しく増やした。警察官も黒人に犯罪を犯す人が多いというステレオタイプなイメージを持っていることが多く(レイシャル・プロファイリング)、白人よりもはるかに多くの黒人の停車、車内捜査や、過剰な暴力を振るう。黒人が警官に射殺された事件を発端とし、黒人の怒りは爆発し、「#BlackLivesMatter」運動が広がりました。黒人差別への抗議デモが暴徒化したこともあり批判も向けられ、また一般市民にしても、警察がいるから治安が確保されているという認識があるので、警察批判に同意しない人たちもいる。しかし、この運動は強いリーダーシップのもとでの運動というよりも、ネットで結ばれたゆるやかな運動として5年間続いています。
アメリカンフットボールの試合などでも国歌斉唱時に起立せず、片膝をつき、人種差別に抗議する動きがありましたが、トランプ大統領は反愛国的であると批判し、つぶそうとしました。
対照的に、「#me too」運動はアメリカ国内のみならず、世界的に広がり、大きなインパクトを持ちました。新しい社会運動におけるネットの力の凄さを感じます。
――最後に、どんな人に本書を薦めたいですか?
川嶋:日本は同質的社会というイメージが強く、差別問題に対しあまり敏感ではないと思いますが、実際には、女性差別、年齢差別、ハンディキャップ差別、性的マイノリティ差別、外国人差別等、いろいろ存在します。これまで、アメリカでの平等運動の展開が日本に伝わり、日本での問題意識が高まり、運動が広がり、平等化への歩みに貢献してきたという面もあります。アメリカでの動向を知ることは有意義だと思います。
移民は、これから日本でも必然的に増えていくでしょう。異なる人種、文化、言語の移民をどのように日本社会の一員として受け入れていくか? この重要な問題を考えるうえで、移民の国アメリカの歴史と今の問題の理解は、参考になると思います。
トランプ大統領となって1年半、黒人大統領オバマがとった進歩的政策の抹消、逆転に走りました。人種差別的発言、批判的運動や批判的メディアの抑圧をはじめ、アメリカ人が誇りとしてきた民主的政治制度、社会の価値規範を土台から揺り動かしています。民主主義の危機が言われています。本書が、今アメリカで起こっていることを知る上で少しでも役に立つことを願っています。
最後に、シリコンバレーには、日本から多くの学生やビジネス関係者が訪れます。アップルやグーグルやフェースブックといった世界に名だたる先端企業に足を運び、イノベーションやスタートアップについて学んでいかれますが、同時に、この地域の発展の歴史、日系人の歴史、人種問題や経済社会問題、等についても目を向け、広い視野からシリコンバレーを理解していただきたいと思います。この本がその助けになれば、うれしいですね。
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