トリノオリンピックですれ違ったアナン氏
アナン氏が国連事務総長として務めた最後の年、2006年2月トリノオリンピックの会場でお見かけした。
フィギュアスケートの試合終了後、会場のプレス席でPCを広げて記事を打っていた私のすぐ横の通路の階段を、SPに囲まれて昇ってきた。
あちらも私の顔に見覚えがあったのかどうか、視線が合うとニッコリと微笑みかけてくれた。隣を歩いていた国際スケート連盟のオッタビオ・チンクワンタ会長が怪訝そうにアナン氏と私の顔を見比べていたのを覚えている。
「あー、以前ルーズベルトアイランドで何度かお見掛けしたことがあります」
「今は妹さんのエクアさんのお隣に住んでいまして」
そんな間抜けたことを話しかけたら、SPたちとチンクワンタ会長に噛みつかれそうだと恐れをなして、何も言わずに笑顔だけ返した。
突然現れたダークスーツの男たち
さてアナン氏が引退して数年が過ぎたころ。ある朝、地下階にあるラウンドリーに行くために洗濯物の大きな袋を引きずり、寝ぼけた顔でドアを開けたら、見たこともない若い男性が4人廊下に立っている。たちまち目が覚めた。
絶対にこの近所では見かけない、まるで「ミッション・インポシブル」から抜け出てきたような、仕立ての良いダークスーツを身につけた筋骨隆々の男性4人。
なんじゃこりゃ。
「グッドモーニング」としどろもどろに挨拶すると、あちらも礼儀正しく「グッドモーニング、マダム」と挨拶を返してくれた。
マダムどころか、こちらは上下のジャージー姿。彼らは一体何者だ、と思ってはっと気がついた。
お隣のドアが、細く開いている。時は国連総会の最中だった。元事務総長として総会に来たアナン氏が、オフの時間にお隣の妹さん一家を訪ねてきたのに違いない。
アメリカの大統領とその家族は、引退後も一生ボディガードが行き先々を同行すると聞いている。国連事務総長も恐らくそうなのだろう。
それにしても、身内の家を訪ねるにしても、ドアは細く開けておくものなのかというのはちょっと驚きだった。