2024年11月21日(木)

栄養学から考える「食と健康」

2018年9月10日

佐々木:この論文を海外の学術誌に投稿したときにすぐに返事があり、「日本の給食に関する情報が世界に出るのはまれなので、ぜひ掲載したい。しかし、われわれは日本の給食のことをほとんど知らないので、数枚でいいからサンプルの写真を入れて欲しい」と言われました。

 日本の給食は、ここまで知られていないのか、と驚きましたね。この論文で、日本の学校給食の良い点、問題点がわかってきた。海外の給食との比較もできる。やっと比較のための材料が出てきたんです。このような材料を出さずに、日本の学校給食は良いよ、と言っても伝わりません。

図3 論文9で紹介された日本の給食事例
英語で次のように紹介された。
White rice, furikake (a seasoned powder for sprinkling over rice), mackerel cooked with miso (fermented soybean paste), vegetables dressed with sesame sauce, Noppei-jiru (vegetable soup), milk

全日本人の必須課題、減塩

松永:先生の研究室の研究では、日本人の塩分摂取量調査も衝撃的でした。

佐々木:同じ朝倉さんが第一執筆者の研究ですが、尿中に排出される食塩の量から、食塩の摂取量を推定した2013年の調査研究です。23道府県に住む760人の男女の尿を24時間貯めて分析した結果、平均して男性で14g、女性で11.8gもの食塩を摂取していることがわかりました。

図4 日本人の尿中食塩排泄量の分布
日本全国23道府県に住む健康な成人(20歳から69歳)760人を対象として24時間蓄尿を2回行い、1日あたりの食塩排泄量の分布を推定した。 人が摂取した食塩は、小腸からほぼ100%吸収され体全体で使われたあと、腎臓を経てそのなかのおよそ86%程度が尿中に排出される。そのため、1日分の尿を全部ためて食塩量を図り、0.86で割れば摂取した食塩量がほぼわかる。 尿中食塩排泄量がもっとも多い9.4〜11.1g未満のグループは、食塩摂取量が10.9〜12.9gに相当する
出典:論文10のデータより作図

佐々木:国民・健康栄養調査の結果は平均して男性で11g程度、女性で9g程度なので日本人も減塩が進んできているなあ、という印象だったのですが、これは食事の内容を自身で記録してもらう調査法なのでバイアスがかかりやすい。食塩は悪いと多くの人が知っているので、ついつい少なめに答えてしまう。それに対して、24時間の蓄尿検査の結果は実態に近いとみられています。

松永:WHOの推奨量である一日5gをクリアしているのは、人口のわずか0.063%であることもわかりましたね。やっぱり日本人にとって減塩は急務、という結果です。

佐々木:食生活の改善にはまずは、自身の食生活でどの栄養素は十分にとれていてどれが不足しているかを把握しなければならないのですが、減塩だけは個人の状況にかかわらず、日本人全体に課題として言えることです。でも、こんなに浸透しない話もないですね。日本人にとって明らかなリスクなのに。

周期的に出てくる「減塩は意味がない」のからくりは……

松永:マスメディアでは「減塩には意味がない」という話が周期的に取り上げられます。

佐々木:食塩摂取については、かなりの数の研究発表があり、減塩の重要性が示されています。減塩していると一部の疾患でリスクが上がる、というような研究結果が時々出てきて、話題になることもあります。ぼくはそうした場合、その論文の試験方法、解析方法に問題がないかじっくりと検討し、評価を急ぎません。「人が犬を噛んだ」たぐいのニュースに飛びついて生活習慣や治療方針を誤れば、たいへんなことになります。新しい研究結果が出るたびに一喜一憂するのではなく、話題性よりも確実性から判断すべきだと考えます。

松永:周期的に「減塩は意味がない」というニュースがマスメディアで流れるのは、「人が犬を噛んだから珍しがられる」というだけではないように思います。「今のままでいいんだよ。塩辛いもの、醤油や味噌をおいしいと思っていていいんだよ」と言われたい、自分は悪くないと思いたい、という読者や視聴者の期待を反映しているのではないでしょうか。期待を肯定してくれるニュースであれば歓迎される、視聴率だって上がる。それに、都合良くそうだそうだ、と言ってくれる医師、科学者がいる。


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