2024年4月25日(木)

栄養学から考える「食と健康」

2018年9月10日

佐々木:それに、自己記入だと、正確には書いてもらえません。普通の人でも食べたものを1割から2割くらいは忘れてしまいますし、太り気味の人ほど過小申告の程度が大きくなる、ということが、世界中の観察研究でわかっています。そういうことも勘案して、BDHQを考案しました。BDHQは約80の質問が並んでいますが、多くは「この1カ月の間に以下の食べ物をどれくらいの頻度で食べましたか?」というものです。

図5 食事調査法BDHQの質問票の一部と個人結果票の一例
質問票には15分程度で答えられる。個人結果票は、このまま維持すればよい栄養素は青、注意が必要なのは黄色、改善が必要な栄養素は赤色で表示されており、「こんな病気に注意しましょう」と具体的な疾患のリスクも注意喚起されている。
出典:東大・佐々木敏教授研究室ウェブサイト http://www.nutrepi.m.u-tokyo.ac.jp/dhq/summary.html

松永:私もやってみたことがありますが、回答は15分くらいで書き終えることができます。1カ月の食事を思い出しながらどれくらいの頻度か選択肢から選べばよいので、記入は楽でした。

佐々木:でも、性能はそれほど悪くないんですよ。細かな研究解析に使うのは無理だけれど、個人の各栄養素の摂取状況をかなりの程度把握できます。たとえば、個人が糖尿病にかかっていて、食生活をどのように改善し治療を進めたらよいか、ということを示すくらいの能力は持っています。

松永:食塩のように、回答者に「良くない」という思い込みがあってどうしても少なく回答してしまうものは一定の補正をするなどして、妥当性の高い結果を出すようにしてあるそうですね。

佐々木:食事調査法を考案して論文で発表し、その妥当性を示す調査結果もいくつも論文化しています。BDHQを受けてもらった人には、回答を解析して栄養素ごとに青、黄、赤の信号の色に分けて結果をお返しします。食べるという行為は極めて生物的、自然な行為なので、自分の食べ方に関心がない、悪いなんて思ったこともない、という人たちは、赤と黄色のオンパレードで、みなさん驚かれていますよ。

量の調節よりも頻度管理で

松永:それぞれが自分の食生活の現状を把握できれば、減塩をもっと強く意識しようとか、食物繊維が足りないから白米から七分づき米に切り換えようとか、飽和脂肪酸の摂りすぎだから肉は控えめに、などと調整できます。

佐々木:そのとおりです。ぼく自身は、食べる量を日々調節するのでなく、食べる頻度を考えて管理しています。疾患の種類によっては摂取量を毎日調整しなければなりませんが、通常の生活をする人であれば週に何回食べる、とか、1カ月に何回、というような頻度管理の方が合っていますよ。米も料理によっては銀シャリ、玄米、麦ご飯と食べ分けたらよい、という話をしましたね。週に3回まではこの料理を食べてよし、というふうに計画をたてるのです。

 頻度管理の方が、食べる量を調節しやすいです。ある食品を1週に1回食べるのと、毎日食べるのとでは、食べる量は7倍違います。毎日食べる量を7分の1にするとか7倍にするのは無理でしょう。

松永:ご飯の量を毎日、3分の1減らすことを心がけるよりも、週7回食べていたご飯を4回にする、と決めた方が、自分で把握しやすいしごまかしにくい。より簡単に摂取量を減らせるよ、というわけですね。梅干しを食べるのは週1回に限るとか、牛乳を飲む量を週2回から3回に増やしてみようとか、考えやすい。

 それに、毎日ベストを目指して、野菜とご飯と肉をこの量食べて、というふうに食事をするのは、現実にはとても難しいです。時には宴会、翌日は家庭で夕食、翌々日はコンビニ弁当、というのが私たちの日々の生活です。週に何回、というような頻度管理でよいのであれば、調整しやすいです。

佐々木:よく、食べた食事を記録する人がいますが、むしろ予定を書き込む、未来を書き込む、というのはどうでしょうか。1週間でこういう料理は3回、というふうに計画をたてるのです。実行結果は少しずれてもいいです。今を把握し未来を管理して食事を楽しむ。頻度にすることによって、はめをはずす自分も楽しめます。焼肉とご飯をお腹いっぱいの翌日は控えめに、と調節するんです。

 人の体はよくできていて、体にたまりやすい栄養素ほど、ぼくたちはめったに食べない。まとめ食いしています。血液に溶けて尿で出る栄養素、ビタミンCなどはほぼ毎日摂っています。一方で、骨を支えるビタミンD。あれは、数ヶ月、半年くらい体の中にたまるので、1カ月に1回くらい食べれば大丈夫です。その一方で、食べ過ぎれば害が起きます。

松永:ビタミンDは、サケやマグロなど脂肪分の多い魚に比較的多く含まれているとされています。毎日ベスト、よい食事を目指すのではなく、メリハリを付けて食事を調節して良い、と聞くと楽な気持ちになります。


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