国境を越えた悲しみ
ロブレドさんは遺族用のゲートにいるスタッフに「私の友人です」と一言告げて、筆者を追悼式典に入れてくれました。青色のリボンを胸につけ、ミニサイズのポケットティッシュペーパー、長細いメモ用紙及び黒色のクレヨンを持って参加しました。犠牲者の遺族や友人が涙を拭くためのポケットティッシュペーパーが、テープルの上に用意してありました。
では、メモ用紙と黒色のクレヨンは何のために使用するのでしょうか。グランドゼロにある石碑に刻まれた犠牲者の名前にメモ用紙をあててクレヨンで擦ると、白抜きの文字が浮かび上がってくるわけです。
追悼式典では、ニッキー・ヘイリー米国連大使、アンドリュー・クオモニューヨーク州知事、ビル・デブラシオニューヨーク市長、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長が列席し、読み上げられた犠牲者の名前に耳を傾けていました。
エミーさんの名前が読み上げられる瞬間が近づくと、ロブレドさんは「もうじきエミーの順番がくるわ」と言って、読み上げる遺族代表をじっと見つめていました。
「エミーの名前が読み上げられたわ」
このとき、ロブレドさんは笑顔を見せました。追悼式典は途中でしたが、「911記念博物館」に筆者を案内し、館内の壁面に他の犠牲者と一緒に掲載されているエミーさんの写真を紹介してくれました。
「あそこにエミーがいるわ」
次に、犠牲者を検索するパネルにエミーさんのフルネームを打って、彼女のプロフィールを見せてくれました。生年月日、出身地、職業などがリストされていました。
「あの方は日本人ですか」
ロブレドさんはある犠牲者の写真を見て、筆者に質問をしてきたのです。犠牲者の写真には国籍が明記されていないのですが、ロブレドさんは複数の日本人犠牲者の写真を見つけ、哀悼の意を示していました。
911記念博物館を出ると、ロブレドさんは石碑にエミーさんの名前が刻まれている場所に筆者を案内してくれました。そこで娘のニッツァさんが、すでにエミーさんの名前に刺してあった4本のピンク色のバラを一旦取り去りました。それから彼女が、名前のうえにメモ用紙をあてて黒色のクレヨンで擦ると、「エミー・デラ・ペニャ」の白抜きの文字がはっきりと浮かび上がりました。
筆者がロブレドさんに感謝の意を伝えると、彼女は連絡先を教えてくれました。
「これが私のメールアドレスです」
彼女のメールアドレスには、自分の名前と「エミー」の文字が入っていました。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。